塔の上のカバンツェル

デューン 砂の惑星PART2の塔の上のカバンツェルのネタバレレビュー・内容・結末

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

友達と池袋のIMAXで観た。

前作、「パート1」は4K UltraHDディスクを購入し5,6回は観直していると思う。

本シリーズのビジュアル的美点は超未来大宇宙SFで中世の甲冑チャンバラをやってる点だと思うけど、本作「パート2」ではそこが減退してて少し不満だった。

機械との戦争の果てにテクノロジーの利用が衰退している世界観…という設定への理解に対して、レーザー兵器などの銃火器が思ったより今作猛威を奮っていたし。
ハルコネン軍がベトナム戦争よろしくヘリボーンするところは確かに見所だけど、折角ラストバトルで"ペレンノール野の合戦"みたいな画を魅せるなら、モブの剣戟シーンをもっと見せてほしい。
ポールの最後の決闘シーンとかもあるけど、全体的に刀同士の殺陣が物足りなかったなぁと。

個人的に強いストームトルーパーこと皇帝の親衛隊サーダカーの造形がとても好きだったので、本作で出番が少なかったのも寂しいあたり。
前作でバンベレバンバン念仏朝礼シーンとか本当に好きだもんなぁ。


【ヴィルヌーヴ監督について】

個人的に応援している作家ではあり。

監督作「シカリオ」(邦題:ボーダーライン)は4Kディスクで毎年2〜3回は観直すくらいに好き。

ヴィルヌーヴの作品では、メインのキャラクターが右往左往しつつ、実は物語の外側でもがくことしかできないという選択権のない不条理が描かれる作品が特に印象深いなと。物語の根幹を動かす原動力は主人公とされるキャラクターとは別に存在し、外側にいた登場人物が不条理からふと瞬間に物語の根幹と交わる瞬間が訪れるという構図に作家性を見出せると思う。

「ボーダーライン」しかり、「ブレードランナー2049」しかり、「プリズナーズ」しかり。
実は"自分はこの世界の主役ではなかった"という冷徹な現実に向き合うことになる。

本当の物語は、自分ではないベニチオデルトロやハリソンフォードやポールダノによって紡がれるという不条理。
その抗いがたい世界の構図に登場人物をいかに向き合わせるか、という点にヴィルヌーヴの作家性があるんじゃないかと。

もう一点、彼の初期作品で地元ケベック州で起きた女性を狙い撃ちにしたモントリオール工科大学銃乱射事件を扱った「静かなる叫び」や、途方もない苦悩と共に壮絶な人生を歩む女性が主人公の「灼熱の魂」など、惨たらしい現実の世界にあって自分の生を手繰り寄せようとする女性を描く点もヴィルヌーヴの大きな作家性であることは間違いなく。

この点は、本作「ドゥーン」の主人公ポールが人間を超越した"空虚な中心"となってしまった一方で、力強く現実の地平線を見つめるチャニで映画を占めたのは、監督らしいとも。

そんな監督の作家性から鑑みるに主人公ポールという、主人公らしい王道主人公というキャラクター。自分で道を切り開くというキャラ造形は監督の主題からは少し離れていったように思う。
だから自分なんかは最後投げやりに感じたのかしら。

それでもビジュアルやシネマトグラフィで確かな仕事を残す実力は間違いなく。

SF映画の金字塔にして、最早不朽の古典の域まで達しつつある「ブレードランナー」や「DUNE」というハードルの高い作品を一定以上のクオリティに仕上げてくれるというスタジオからの絶大な信頼。
(事実上アラビアのロレンスみたいな企画でもあるわけですし、本作)

名作をその名に値する拡張高いルックに仕上げることができる監督の力は確かな一方で、その拡張高さが作品の歴史的位置付けと相まって権威主義的ではないか?とナイーブなリアクションを引き出す素養もあると思う。
スペクタクル性や観たことのない楽しいビジュアルを期待するジャンル映画のファン層がイマイチな反応を見せるのはその辺に理由があるんだとも。

リンチ版のマッドな愉快さとは別の地平を行く作風。


【俳優陣について】

映画館でティモシーシャラメの脚の長さにびっくりした。
そんな頭身の人いるんだ。

ゼンディヤと並ぶとグッドルッキングガイズっぷりが凄い。

初代スターウォーズや過去の名作SF映画では無名の俳優がその後羽ばたくってことが多いけど、本作のキャスティングは全てが手堅く。
演技上手い人がたくさんいる。たくさん。

ステランステルガルドは特に好き。
というか今全俳優の中でも好きな部類。
「チェルノブイリ」の演技で号泣した俳優さん。

あと、決闘させられるアトレイデス最後の兵士のアジア系の俳優、パート1にも出てたけどスタントコーディネーターの人ですね。メイキングでモモアに振り付けしてる。


【核兵器】

他の領家への抑止力と言及されてたから、戦略核兵器レベルを想像していたら、意外とあっさり使ってた。
普通に冷戦時代の火力投射の延長である戦術核のノリ。


【本作について】

原作は未読。
ラジオの企画で大筋の背景だけ予習した程度の知識ながら、後世の「スターウォーズ」や宮崎駿作品への絶対な影響を与えた本作。

原作者の大海原たる砂漠の情景とアラブの人々への造詣は映画にも魅力的に落とし込まれていると思う。

一方で、宗教的な預言者のモチーフまんまのポールが選択する楽園=ジハード…という着地点に流石に一方引いた目線で幕を引いた心情も理解できる。

ストレートにアラーアクバル!エンドである。

多分、Blu-rayも買うんだろうし、落ち着いたらまた見直そう。

「パート3」も結構企画としては進めるようだし、チャカチャカしたスペースオペラとは違う路線の硬派なSF的路線が引き続き楽しめるのは嬉しいなとは素直に思うなぁ。

でもヴィルヌーヴには「シカリオ パート3」を監督してくんないかな。
続編ずっと待ってるんだけども。


【参考文献】

公式パンフレット
「動画&配信データ」

【参考メディア】

「アフター6ジャンクション」TBSラジオ 2021年10月放送