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夜明けのすべてのkouのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
社会の生きづらさ。皆普通に問題なく生きているように見えるのだが、多くの人が辛さや悩みを抱えながら日々を生きているのかもしれない。今作の日常の音が、時に攻撃的に聞こえるのも見事だった。なんて事のない生活音や会話が心を傷つける。そんな社会でPMSとパニック障害、異なる持病を抱え、苦しんでいる2人の関わりが描かれる。

家族や恋人でなくとも、友情でも恋愛感情がなくとも、他人同士が助け合うことはできる。それは、「辛く苦しんでる人たち同士だから」、ではなく、「辛く苦しんでいても」。押し付ける親切さでなく、そっと寄り添うように。

他者について知ること、当たり前でなんてことのないそのその尊さと灯火のような優しさに涙腺が崩壊し続けた。それは何気ない会話の端々に。

夜明けの希望と共に、語られるのは夜の見たことのない世界。遠く昔の光が見えているように、夜がもたらす世界もある。夜についてのメモは、続いていく人生の諦観でもあり、希望であると思う。続いていく限り、止まることなく変わり続けていく。やはりそれは、間違いなく希望ではあるのだ。

私の人生の中にも、辛い時や苦しい時に手を差し伸べてくれた人がいた。今思えば人生を変えてくれたような出会いも。そして偶然にもその人との別れを目前にしている。

誰かが手を差し伸べてくれたように、自分も何かできるかもしれない。今作を心の灯火にして、生きていきたいと思った。ヘイトに溢れた世界で、他人に少しでも手を差し伸べることができたなら…。
本当に素晴らしい作品だと思う。かけがえのない作品に出会った。
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