めんち

夜明けのすべてのめんちのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

原作を一読した限りでは、不安な要素もあったけれど、うまく脚色された映画になっているという印象。
松村北斗演じる山添が、初めて栗田科学のジャンバーを羽織って、藤沢の忘れ物を届けるシーケンスにて映る、日差しのフィーチャーされたショットは白眉。また、社長の弟に献杯するシーンを引きで撮るところも素晴らしい。

この映画化の良いところは、原作の要素から、空間的にも、人間関係的にも、そして時間的にも広がりを獲得し得ていることだ。
また山添のナレーションがラストに来ることで、山添の気持ち悪さ(藤沢の「生理」に関心のある描写は極めて削られている)が薄らいだのと、藤沢のナレーションとの対比構造が作られていて、そこも気持ち良い。
山添の前職の上司が、栗田科学の社長とピアグループを通じて知り合いであるというのも、山添があの会社を選んだ理由としても、また社長や上司の理解という点でも説得力を増していて良いし、人間関係が有機性を帯びていて、物語全体の強度を増しているように思う。

かくして複数の、関わりを持った軸として展開される話は、プラネタリウムの上映回という形で結実する。
それが恋愛関係に至らず、ハイタッチなどもせず、ただそれが成功裡に終わったそれのみを示すドライさがあり、しかしそれは、この映画が、たんなる男女の物語ではなく、たまたま男女であっただけの、「同志」による映画であることを示すという点で重要である。

人間関係でいえばウェットな栗田科学での日々を描写しながらも、よりパーソナルな領域でいえばドライな、そんな極めて繊細なバランスで描かれた「お仕事」映画として、観るもののお守りになる、そんな映画だと思った。
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