この映画で現実と違うのは時間の早さである。別に過去を肯定しているわけではないし、私たちは今を生きている。それはドラマティックな世界でもないし、平凡な日々である。他なら大したことのように誇張するような出来事も、大ごとに見せず途中で場面を切って終わらせる。現実もそのくらいの起伏でしかない。テレビのように効果音が出て顔アップにはならない。場面を切ることで場面の中の時間はゆっくりだけど、時間経過でリズムをつくっている。あと解像度というか密度、逆にそれがあるから時間がゆっくりに感じるのかもしれない。ゆっくりな心地よい時間に飽きることなく没入できる。その要因は映画館にいるということもある。観る環境でこの映画は良し悪しが変わると思う。ケイコを観た館は音が大きすぎた。
自分の外にある何かに気付き認めるためにはあのゆっくりな時間が必要で、あの時間に身を置くことで、日常では不可能な労りを違和感なく成り立たせるこができている。あまりに自然にカメラを置いているためか、言葉で説明できない優しい時間が終始流れる。それは日常の彼らの存在を肯定してみせる。星野源のMVのことから特にそう思う。そして、三宅さんと濱口さんの映画にはかみのたねが付いてくるので、それも嬉しい。
