しの

AIR/エアのしののレビュー・感想・評価

AIR/エア(2023年製作の映画)
4.0
マイケル・ジョーダンをあくまで象徴にとどめ、小太り中年白人が率いるチームの逆転劇にフォーカス。劇中で『ロッキー』の名前が出てくるが、まさにここに賭けるんだというその瞬間、ひいてはアメリカンドリームという物語を「遺そうとした」人々の話で、それが本作自体にもシンクロする。

冒頭から1984年という時代をパッケージし、以降も名曲群やオフィスの映し方など、ノスタルジックな演出が展開される。極め付けは終盤のスピーチで語られることと映されるもので、一貫して「あの頃を振り返る視点」が強調されている。この今を形成する選択をした者たちが確かに居たのだと。

スピーチ内で、ジョーダンが何を引き受けることになるかを予見する台詞があるが、それは数多のアメリカンドリームの物語についての言及でもあると思う。それは虚像なのかもしれないけど、しかし確実に今の我々に届いている。”Born in the U.S.A.“の表裏一体的な使い方が端的にそれを示している。

本作はそのような「物語」を、まさにアメリカ映画的な語り口で体感させるという構造がある。とにかく交渉やプレゼン、会話によって相手の心を動かしたり説得したりする場面が多く、その極致に終盤のスピーチがある。この価値観がまずアメリカ的だし、口汚い罵り合いも含めてそれらを編集で楽しく見せるあたり、“らしい”。正直、資本主義どっぷりな世界の話で、それによって失い得るものについては言及されるものの、では本当に失ったらどうなるかという点は強調されず、成功者の話だよなとは思う。ただ、どちらかというと好きなものを追求した人々のドラマとして見れるようになっているので、そこまで鼻白まず観れた。

なので、これはナイキという企業の話でも、マイケル・ジョーダンという伝説の話でもなく、人の信念が何を変革し、遺し得るかという話なのだと思う。その歴史を回想する媒体としても、まさに何かを遺さんとする作り手の気概を体感する媒体としてもアメリカ映画が機能していて楽しめた。
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