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AIR/エアのSPNminacoのレビュー・感想・評価

AIR/エア(2023年製作の映画)
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一種のチームスポーツものの面もありつつ、早口大量のダイアローグでコメディタッチに展開する会話劇だけど、アーロン・ソーキンとは趣が違う(ソーキンなら歩きながら喋る)。地味に太った中年男ソニーを中心にナイキ社オフィスや電話でほぼ仕事の話ばかり、喋る相手がコロコロ変わるだけ。気づけば映画の半ばになってもまだ交渉の席に着いていなかった。それでも全然停滞しない。
マイケル・ジョーダンと契約すべきかどうか。アディダスかコンバースか、いやナイキか。挑戦するか諦めるか、吉と出るか凶と出るか。結果は誰もが知ってるものの、映画は敢えてのるかそるかのギャンブルとして組み立てる。
無茶な交渉に乗り出すソニーと代わる代わる相手するのは、福音をもたらす天使と心惑わす悪魔みたいなものだ。天使は2人の同僚やシューズ・デザイナー、キング牧師との逸話を持つコーチ。悪魔はジョーダンの代理人(クリス・メッシーナが美味しい)、ボスのフィルは時に悪魔で天使にもなる。ジョーダンの母はさしずめ運命を司る神。ジョーダンその人は宙(AIR)に浮いたまま、ほぼ顔を見せず声も聞かせない。
1984年の断片イメージをザッピングしたオープニング、その後ソニーがコンビニで目にする沢山のロゴが、商品に大事なのはイメージとロゴだと端的に示す。ソニーがそのイメージに意味(物語)を加え、アメリカン・ドリーム神話はジョーダンの姿で具現化していく。もちろん、それがナイキ帝国の神話でもある。イメージとロゴは最後にまた実際のフッテージに戻る。
ベン・アフレックはなんで今これを映画化したんだろ。景気良く可能性や革新、そして労働の対価を信じられた時代の神話だからかな。けど同時に、足を止めず足元を見ずに走りきることで勝者になれる(ああ、そうだ赤い靴を履いたら踊り続けるしかないんだ)という成功神話をやや懐疑的に見せてもいる気がする(カメラは足元を映して、ソニーは最後に足を止める)。善かれ悪しかれBorn In The U.S.A.だからさあ、って。その勢いのまま余韻を溜めない編集(ちょっとソダーバーグっぽい?)が良かった。
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