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12日の殺人のnetfilmsのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
4.2
 全ては何の繋がりもないようでいて、実はすべてが完璧に繋がっているという驚異の映像世界に挑戦した傑作『悪なき殺人』のドミニク・モルの新作ということで初日に駆け付けたわけだが、いやはや今作も凄まじい傑作ぶりに開いた口が塞がらない。一応カンヌのコンペ部門にもノミネートされたらしいが、無冠に終わったのだが全世界のシネフィルは彼のことを放ってはおかないだろう。地味ながら全盛期というか、61歳にしてすっかり円熟期に到達したと言うべきか。10月12日の夜、フランス南東の地方都市グルノーブルで、女子大生クララが帰宅途中に公園にて何者かに火をつけられ、その翌朝、焼死体が発見される。生きたまま焼かれる人間の苦しみは想像を絶する。ハイチという国では今日も対立するギャングの一方が公衆の面前で火あぶりにされ、その様子がスマフォの動画で世界に配信される。戦争や紛争が起きていないハイチという国は今は世界最悪の治安と呼ばれたメキシコやコロンビアを遥かに凌ぐ世界最悪の治安の地として知られている。グローバル資本主義は国境の境目もなく、全てがインターネットやSNSにて秒で繋がるフィジカルに熱狂する若者たちの希望は実はこのような未解決事件が存在するというのが言い得て妙で、ドミニク・モルの意図する世界が私には大いに共感出来る。

 刑事ヨアン(バスティアン・ブイヨン)を班長とした捜査班は関係者への聞き込みを開始。すると、男たちが全員クララと関係していたことが判明する。クララの殺害が計画的犯行であることは明白であったが、捜査線上に浮上する人物たちを誰一人として容疑者と特定することができない。事件解決の糸口が見つからず、やがてヨアンは訳もなく事件が頭から離れなくなり、事件の闇に飲み込まれていく。傑作『悪なき殺人』ではクロード・シャブロルへの憧憬を隠そうとしないドミニク・モルだが、今作を観た時点で明らかにモーリス・ピアラの後継者だなと考えを改めた。ドミニク・モルは冒頭から今作が「未解決事件」であると謳い、その通りの展開に向かう劇映画的な所作に敬意を払いつつも、恋多き女の悲劇に転ずる様子は真っ先にデヴィッド・リンチの『ローラ・パーマー 最後の七日間』を想起した。或いはデヴィッド・フィンチャーの傑作『ゾディアック』との互換性も感じられる。サスペンスにおいてはその事件を担当する刑事の生き様こそがジャンル映画の核になるのだが、どういうわけか今作では刑事ヨアン(バスティアン・ブイヨン)の心の欠損へと静かにフォーカスして行く。どうして公道を走らないのかと問い掛けるマルソー(ブーリ・ランネール)もまた、事件の深層とは異なる闇を抱えている。職業意識としては人間誰しもが事件の迷宮入りを望むわけがない。深淵のその深い深い先にあからさまな動機があれば事件は簡単だが、大方仄暗い深淵が浮かび上がる。然しながら映画の主題としては泥濘に足を取られ肝心要の結論は回避される辺りがまた絶妙な塩梅である。
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