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12日の殺人の教授のレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
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ドミニク・モル監督の作品は前作「悪なき殺人」に続いて2作目。
前作譲りの「ミステリー」を通した人間模様と、いわゆるエンターテイメントなカタルシスから横道に逸れたテーマの活かし方という点で共通している。

生きたまま火をつけられ殺害されたクララ(ルーラ・コットン=フラピエ)の身辺を捜査していく中で、浮かび上がる刑事たちの日常の切り取りという視点の目新しさ。
新しく班長に昇進したばかりのヨアン(バスティアン・ブイヨン)の「答えと理由を求め過ぎる潔癖さ」と対を為す「WOKE」的な柔軟さ。
マルソー(ブーリ・ランネール)の繊細なまでに「言葉」や概念の大切さにこだわり情深いが、それ故に予断と偏見に翻弄されがちな点などの描き分けが見事。

人物造形の長所と短所が「見え方」によって多層に交錯する脚本構成と演出は非常によくできている。

「犯人探し」や、それに伴うドラマ的因果関係については一切掘り下げることも、安易なカタルシスに決着するでもなく。
本作は「事件」によって生じる感情についての物語を描写する。
他人事として、仕事として「殺人事件」に関わる。その「関わり」という現実こそが、ヨアンにとっての気付きとなる。

管理職として見えてくる姿。
コピー機が壊れる。男性的価値観の吹き溜まりのような環境。それ故に被害者への人物像へ生まれる偏見に根差した見方。更にそれらへの苛立ちと責任感から生まれる怒りやストレスもまた目を曇らせる。

被害者は容疑者と浮かび上がる全ての「男性」と肉体関係がある。
たかがセックスの問題であり、されどセックスの問題にセンシティブに翻弄される様は、ジェンダー問題の滑稽さを炙り出す。

と、観ていて沼にハマっていく感じは充分楽しめる。そして、そこに妙味が仕込まれているところが本作の魅力ではあるのだが、ユアンに性格と同じく、実に潔癖で結論ありきな物語の息苦しさも一方で感じる。
とはいえ、好きな作品。
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