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窓ぎわのトットちゃんのkaoのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.0
いつもはアニメはあまり観ないのだけど、映画評論家の町山さんのコメントが気になり、新年早起きして観てきてしまった。
いつも憂いを含んだ泰明ちゃんの眼差し。そんな子が水にふれることでカラダの軽さを体感し新しい世界に接する。自由に泳ぐファンタスティックなシーンは、桜とたわむれる、高畑監督のかぐや姫を思い出してしまった。懐かしい。
それにしても校長センセの懐の深さたるや。落とした財布を懸命に独りで黙々と探すトットちゃんを叱りもせず、ちゃんと戻しとけよとそれだけ伝えて「それでみつかったかい?」と聞く校長センセ。すごいね。
「ほんとうは君はいいこなんだよ」
ああ、なんてシンプルな自己肯定感を育む言葉。
どんな子もよいところは必ずあるはずだし、大人は成長の過程をみまもってやること、そして最低限の幸せとは、空腹を満たす食べ物があり、おてんとさんに干したあったかい布団があり、自分で考えてどうするか決めることができる自由があること、そんなことじゃないかなぁ。

戦争へ加担する国になっていく様子を音楽の世界や日常会話の規制から、街の様子から、ひたひたと迫ってくる恐ろしい世界を描かれていてゾッとした。今、私らが暮らすこの世も紙一重的なのだとつくづく思うし、同じ末路を辿らないよう託されたストーリーなのかもしれない。泰明ちゃんのお葬式のあと、ひたすら走るトットちゃんの背景に描かれる街の美化された戦時中の光景が胸に刺さりまくる。命を捨てに戦地へおもむく子供を万歳と叫ぶ親だなんて日本国中、マインドコントロール狂気の沙汰だ。

好きなシーン

・少し大きくなったトットちゃんが赤ん坊を抱くお母さんの髪を整えてあげる細やかなシーン。

・トモエ学園のことを馬鹿にする奴らに対して石を投げたりせず言葉をもって対抗したシーン

・ヒヨコとの別れについての泰明ちゃんの言葉。そのまま泰明ちゃんの別れのシーンにかぶってくる。
「幸せだったんじゃないかな
トットちゃんに会って一生懸命生きたんだし」

・泰明ちゃんのお別れのシーンでトットちゃんは黒っぽい服ではなくいつもの赤いワンピース。そりゃ突然だもの、受け入れられないだろうし、子供にとっては何色の服を着なきゃいけないなんて大人の世界のルールに過ぎないことだもの。

生きた時間の長さが全てではない。短くてもギュッとした人生もあるし、人生前半ほとんど親の言う事だけ聞いてほぼ無能だと自虐的に生きてきた私みたいのもいて、まぁ幸い、それでよいわけがないとようやく遅まきながらハッとした後半戦、ここからは一生懸命、生き直しなのだと思って一日一日大事にしていこうと密かに思う元旦一本目。
kao

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