たく

ハンガー:飽くなき食への道のたくのレビュー・感想・評価

3.5
タイ屋台の女性料理人が一流シェフに腕を見出され、その道の頂点を目指していく話で、胸熱展開よりも演出面でいろいろツッコミどころがあってそっちが気になってしまった。格差社会の象徴たる庶民の屋台と高級レストランとの対比が、主人公と一流シェフの対決の図式に綺麗にハマるプロットはいいとして、食材を無駄にする描写が頻出したり、焼き専任だったはずの主人公が料理の腕を上げるまでのプロセスをかなり端折ってて雑に感じたり。

全編に頻出する「渇望」というキーワードが食べることと夢を叶えることのダブルミーニングになってて、まず序盤でカリスマシェフのポールのメニューを上品そうな客が貪るように汚く食べるのが、客の食への渇望を引き出すポールの天才性を分かりやすく示してた。でも本当に美味しい料理ってそういうもんじゃなくね?っていうのが引っ掛かった。ポールはそのまんま「ザ・メニュー」のシェフを思わせて、厨房での独裁者っぷりが笑っちゃうくらいステレオタイプ。

屋台で鍋を振ってるオエイがポールのレストランで働くトーンに料理の才能を買われ、ポールの審査を潜り抜けて料理人となり、彼の厳しい指導の下で上を目指していくのが胸熱な展開。でも包丁もまともに握れなかったオエイが料理の腕を磨く描写が、トーンの自宅でのイチャイチャシーン以外にほとんど出てこないんだよね。彼女が独立して自分の店を開くくだりでソースにダメ出しするシーンで、いつソース作りを覚えたの?って目が点になった。

本作は、トップに上り詰めた一流シェフの驕りと、自分が本当に進むべき道に気づいていくオエイが対比されてて、「渇望」という言葉には人が夢を掴むためには行き過ぎた行為も辞さないという、ある種の狂気が込められてたね。役者では、「バッド・ジーニアス」以来たびたび出演作を観る機会のあるオークベープ・チュティモンの悲壮感漂う演技に引き込まれた。
たく

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