VisorRobot

ハンガー:飽くなき食への道のVisorRobotのレビュー・感想・評価

4.3
Netflixで見た。小さいスマホの画面で見た。アトロク(ライムスター宇多丸のラジオ)の昔のおすすめ映画な回で誰かが進めていて印象に残っていたんだと思う。
あと、昨年タイに行ったから。で、タイにってのちに聞いて印象に残ったので、昨年6月以降の回である。

いわく、「食についての映画でありながらタイの痛烈な格差社会が通奏低音と流れており、なかなか強烈だった」といった感想で、タイで豪遊してわっはっは(といってもホテル代1泊1万くらいのレベル)だった俺は少しの罪悪感とともに気になっちゃったのである。

結論から言うと、同じNetflixのヒットドラマである『クイーンズギャンビット』は必ず下敷きにあるだろうなというようなストレートな料理スポコン物で、かなり面白かった。一晩かけての料理修行だとか、主人公がいきなり他の料理人を追い越して頭角を現すとか、鬼のようなコック長(師匠ポジ)と次第に袂を分かつことになるだとか、料理漫画の王道を全部押さえている。

終盤には第一話(映画でいうと最初の30分)で登場した実家の「駄々っ子麺」VS「とにかく巨大な肉を巨大な剣でばっさばっさ切り裂くド派手だがそれ料理といえんのか料理」の対決もあり、大盛り上がりだった。

「やつらは、ラーメンじゃなくて情報を食っているんだ」という通称ラーメン禿(『ラーメン発見伝』など)のネットミームと類するセリフも出てきており、要するに料理ものの満漢全席や~。

ただ、それらに大いなるポイントが食べる側のリアクションで、アトロクでも触れられていたが特に金持ち連中はソースをまき散らし、くちゃくちゃと音を鳴らし、まるでグール(食人鬼)のように汚く料理を食い荒らす。
違法に金持ちが狩りをした稀少な鳥を料理したことで結末がつくことや、シェフが子供のころにあこがれたキャビアがまるでうまくなかったエピソードも含めて、そこにあるのは味も品もない経済グールたちがまるで市場を食い物にするように高級料理を食い荒らしており、主人公らのこだわりや技術はそのために差し出される余興でしかないのだという諦念である。

そのため、料理自体に差して映画を作った側は興味がないんだろうなーということが非常に伝わってくる。作中ではっきりと出てくる料理の過程は肉を薄く切るとか強火でひっくり返すとかだし、主人公がHunger(勤務先の高級料亭)に入ることが許されたのは「冷や飯でチャーハンを作るとうまいことをしっていたから」だ。

‟伊藤家の食卓”か!

中盤、エビアレルギーの子供に甲殻類のスープを陰謀により危うく出すところだったシェフが大忙しでインスタントのスープを供す(それが全く気付かず受け入れられる)ところも含めて、さすがに料理に興味なさすぎじゃないかと疑問に思わないでもないが、そこまで露骨に「料理は情報だ」と言い切るわかりやすさが、やっぱりよかったなとも思う。

掘り出し物である。
VisorRobot

VisorRobot