さとうきび

ミッシングのさとうきびのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.9
前作『神は見返りを求める』同様に周囲(世間)に振り回されて人生がおかしくなっていくタイプの映画なんだけど、ここまで毛色が違う作品に仕上げてきたのは素晴らしい。やっぱ好き。


ストーリー 7/10
救いがなさすぎて逆に笑えてくる内容。娘が行方不明な中、心ない誹謗中傷でぶっ壊れていく家族の話。もちろん母親の心情がメインなんだけど、同じ男性としては弟君の境遇がめちゃくちゃ心に刺さった。
欠点としては物語の起伏に乏しく、わざわざ2年後とか飛ばした必要性もそこまで感じなかった。地獄のような状況からは抜け出せてないけど、なんとなく爽やかな感じで終わるラストは実に邦画っぽくて良い。


構成 8/10
被害者家族への偏見を視聴者側にも想起させる構成が見事。第一印象として、夫婦は裏がありそうだし、弟は見るからにまともじゃない。しかし、映画が進んでいくと、確かに彼らには欠点はあるものの、叩かれるほどの悪人ではなく、普通の人なんだと感情移入できるようになっていく仕組み。そんな中、テレビプロデューサーの砂田さんだけは完璧超人なのでそこが少しリアリティに欠けた印象。


演出 9/10
石原さとみがマジで口の悪いヒステリックなヤンママにしか見えないのが凄いと思った。国民的美少女だった彼女をあそこまで歪められる演出力に脱帽。ちょっと大袈裟にやり過ぎ感があったのはマイナス。
時折り挟まれる笑ってはいけない状況でのシリアスなユーモアは監督の味が出ているが、合わない人には不純物かも。私は好きです。


オリジナリティ 3/5
テーマとしては最近の映画ではありがち。ただ、話の転がし方ではなく、感情描写全振りで見せ切ったのが凄い。子供の失踪がすでに起こった後から物語が始まるので、初っ端からどん底状態な家族もの、というのも珍しい気がする。


ジャンル性 5/5
派手な場面やご都合主義な展開があるわけではなく、ずっと湿度の高い物語が続く。絶望の淵にある人々の葛藤を見せるドラマという点ではジャンルとして満点に近い気がします。家族の幸せなシーンが過去の回想とかではなく、スマホの動画でちょこっと流れるだけっていうのもリアリティある連続性が感じられてこだわってるなぁと感じました。


映像・美術・音楽 4/5
沼津の港町な風景とかミカン畑のシーンとかめっちゃ綺麗で、物語とのあまりの温度差に風邪をひきそうなくらい。音楽の使い方もそういったギャップを狙った演出が多かった。
あとは表情のアップと長回しが多く、映画の主題とマッチした撮り方だなぁと思いました。


キャスト 4/5
キャスティングはそこそこ豪華だけどハマり役! みたいなのは無かったです。石原さとみさんも上で書いたけど長短あるって感じ。個性派ってところで言うと森優作さんは存在感というか異物感が凄くて好きでした。


個人的加点減点 −1
個人的にめっちゃ好きな監督なんですけど、期待していた持ち味が薄めと言うか。映画自体の完成度はもちろん高いんですが、『さんかく』とか『愛しのアイリーン』みたいに後半で一気にボルテージがあがるあの感じが好きだったので、そこが物足りなかった感じです。