みっちぇる

ぼくたちの哲学教室のみっちぇるのレビュー・感想・評価

ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)
4.5
北アイルランドベルファストでの小学校での哲学を用いた授業実践。
教室で起きる喧嘩から、ベルファストで起きているプロテスタント系とカトリック系住民の衝突まで、身近にある題材を哲学的に捉える問いを投げ続ける先生たちの様子が映される。

コンセプトマップの書記と議論へのフィードバッカー(ソクラテスの仲間)を用意した上で議論している教育実践としても興味深いが、出色は暴力を哲学的対話の中で捉え直す営みだろう。思索の壁というホワイトボードの前で「自分はなぜ暴力を振るったのか」を徹底的に問われて対話する。そして、時間をおいて改めて校長先生と対話させて自分が何をすべきかを考える。校長先生をはじめとする教員たちの懸命の取り組みは、哲学的アプローチを通して、物事にはいろんな捉え方があることを伝えることで怒りや暴力の連鎖を断ち切ることを目指した、どこか祈りのようにも感じる。

また、本作品に出てくる教員たちは急かさない。一人ひとりの持っている考えを、感情と向き合う時間を、経験と捉え直しを通して考え方が変容していくことを、しっかりと待つことができている。この待てるゆとりを学びの場で持つことがとても大切なのだろうと感じた。

その上で、この映画が素晴らしいなと思う点は、それでもうまくいかないことにもしっかりとスポットライトが当てられている点だった。喧嘩は繰り返されるし、親御さんが「殴られたらやり返せ」という教育をしていることもわかったり(そのことへの疑義を親にどう伝えるかを授業したシーンは圧巻だった)、コロナでロックアップを余儀なくされたり、ネットを使った新しいいじめの問題が目を覆いたくなるものだったり、、、校内に貼られた哲学者の画像とフレーズで鼓舞しながら、印象的に挿入される筋トレのシーンもあるように、教員はみな全身全霊で戦っていることに心動かされる。

ベルファストの現実は厳しい。しかし、宗教的対立を孕むベルファストだからと片付けるのではなく、誰もがそれぞれの厳しいリアルを生きているからこそ、この教育実践が一つの選択肢として広く知られることを望みたい。
みっちぇる

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