ryosuke

タブロイド紙が映したドリアン・グレイのryosukeのレビュー・感想・評価

3.6
 ファーストシーン、奇妙な電子音に合わせて、暗いトンネルの中の水路を緑色に発光する乗り物が進んでいく光景を見せられて、何事かと思っていると、冗談のような陰謀の空間に辿り着く。全世界のタブロイド紙の担当者を支配している権力者がいるという謎の設定は愉快。ドイツ映画で夕刊フジなんて名前を聞くことの意外性。爆発する葉巻に驚いて凝固した面々の間を通って前進するトラッキングショットはウェルマン『つばさ』の例のショットを思わせる。
 『アル中女の肖像』に比べるとストーリーがあって見やすいのではと期待したのも束の間、奇妙な岩場の観客席から海辺のオペラを鑑賞するシーンに至ると、これが到底劇中劇とは思えない長さでヒエッとなる。歴史劇に自動車が侵入してくる瞬間はストローブ=ユイレ『オトン』のような味わいがあったが......。柱と壁が新聞紙で埋め尽くされたマスコミのダンスパーティーも、テキパキ進めようという意思など一切ないロングテイクで披露される。その後も、ブラウン管テレビの並ぶ白い神殿のような空間等、面白い空間は幾らでもあるのだが、釈然としないシーンの連続とおよそテンポというものが存在しない生理感覚(しかも150分)に気絶しそうになる。オッティンガー手強いな......。
 ラストは良かったかな。小道具のナイフと本物の取り違えで殺害されたヒロインの敵討ちのために、小道具感満載のナイフと偽物丸出しの血糊、間抜けな腕の振り方で決着をつけるアホらしさ。と思えば、復活した連中を真っ赤な自動車の間抜けなスローモーションで再度殺害する。前者が夢だったのか、あるいは死後にもう一度殺したのかとかはどうでもいい。
 生来の気品と魔女のような低音の笑い声を持つデルフィーヌ・セイリグにとって、謎の権力者役はハマり役ではあった。
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