白色テロが横行していた蒋介石統治下の1950年代の台湾を舞台に、思想犯として投獄された人々が抑圧された状況の中で力強く生きようとする姿を描き出す。全体的に柔らかいタッチで撮られてて、残虐なシーンは一つも出て来ないけど、思想の自由を奪われることの恐ろしさがひたひたと胸に迫る。同じく台湾の白色テロを題材にした「返校 言葉が消えた日」も、書物の禁止を徹底的に描いてて怖かった。台湾語、北京語、日本語が入り乱れるところに、当時の台湾人の抑圧された状況を窺い知ることができる。
1953年の台湾で、共産主義思想の弾圧(いわゆる赤狩り)の下、思想犯とされた人々が緑島の収監施設に送られ、不当な強制労働をさせられてる。ここに収監されてる絵の得意な杏惠(字幕だと杏子だった)、ダンスの得意な陳萍、看護師の嚴の三人の女性にスポットが当てられ、それぞれが自分なりの方法で生き抜こうとする姿が描かれていく。天真爛漫な杏惠が一見周囲に流されてるように見えるけど、相手に対して決して偏見を持たずに真っ直ぐ向き合うところが彼女の強さなんだよね。
大団長の娼婦となる陳萍が労役を免除されて特別扱いされてる中で、杏惠が決して彼女を悪く言わないのは、時折見せる悲しい表情に彼女の抱えてる悲しみを感じ取ったからだと思う。そんな陳萍が大団長に捨てられ、彼が代わりに杏惠を娼婦にしようとしたことで、杏惠をトーチカに送って欲しいと大団長にお願いするのは一瞬「愛を歌う花」のハン・ヒョジュを連想したけど、結果的に杏惠が軍法処行きを免れることに繋がり、それこそが彼女の本意だったとも取れる。
杏惠に強く自分を持つことの大切さを教えてくれた嚴が、それゆえに軍法処に送られて悲しい結末に至るんだけど、彼女が刑執行の直前に撮られた写真で笑顔を見せる。この後に実際に処刑されたであろう本人写真が次々と出て来て、これから殺されるというのに多くの人が笑顔で写っていることに驚く。ここに自分たちの犠牲が未来の自由に繋がるという強い信念の顕れを見た。台湾の白色テロは1987年まで続いたとのことで、今の平和な台湾からはちょっと想像が付かない。