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PERFECT DAYSのkaoのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
率直に言ってヴェンダース監督の新作を、人生後半にまたこうして観ることができて嬉しい。しかも日本の俳優さんで東京が舞台だ。東京タワーではない、下町だものスカイツリーだわね。改めて見るとスカイツリーって美しいんだなぁ。
ヴェンダース映画にあったのはベルリン天使の詩、パリテキサス。公開時まだ20代で、何をいいたいのか正直よくわからぬままパンフレットを買って読み、それでもよくわからなくて、でもベルリン天使の詩の冒頭のモノクロの映像の持つ雰囲気がめちゃくちゃ好きだった。
本作でも、いち日の終わりに随所に入るモノクロの映像の数々はまさしくあぁ、これこれ!ヴェンダースだなぁ、と懐しい本の表紙をめくるような感覚だった。

何年か前、お気に入りのcafe stand noraという移動式珈琲屋の若き店主と「好きな映画は何?」なんてことを話していたら、若いのにベルリン天使の詩、と言うではないか、懐かしっ!一瞬耳を疑った。久しぶりにその名を若者の口から聞こうとは。。今は昔の映画もYouTubeで冒頭みることもできるんだものね。妙に嬉しくて公開時の日比谷シャンテで買ったパンフレットはその店主に持っててほしくて半ば勢いで無理やり授けてしまった。

平山さんの毎朝ルーティンで始まる日々の繰り返し。歯磨きしてるだけで様になるし、目覚ましなしでも起きられるし、セリフなくても何か伝わってくる。さすが。
職業に貴賎なしとはいうけれど世間的には皆やりたがらないこの仕事にフォーカスしたのは何か暮らしの本質的なことを考えるに充分な視点と思う。そりや実際はこの何倍も大変な現実はあるだろうことは想像される。でも人が生きていく中でトイレを使わないなんて人は誰もいないし、複数で使えばそれはそれなりに汚れる。当然誰かがキレイにしてくれている。その仕事をしてくれる人を下に、もしくは忌み嫌うような視線を向ける人もいるわけで。公園で迷子の子供の手のひらを速攻拭いたお母さんのように。
社会の普通と言われるラインから外れているのかもしれなくても平山さんのようにある意味納得してその仕事を淡々とこなし、小さな幸せに気づく視点を失わずに、文学も嗜みつつ、行けばお疲れ!と笑顔で言ってくれる行きつけのお店もあったりする毎日…
なんというか「足るを知る」そんな言葉を思い浮かべた。

音楽だけで何だかキュンとしたなぁ。石川さんの店の片隅でギターを引いていたのは何と、あがた森魚さんではないですか。びっくり。
「青い魚」という曲は初めて知ったのだがとても魅力的だった。細野晴臣さん味を感じる。

金がなくちゃ恋もできないなんて!と愚痴っていた若僧くんよ、お金なくても恋はできるのよ。

先日、とある人のがインタビューで「豊かさとは?」の問いに「自分で考えて自分で自由に決めることができること」という言葉があった。日々何かをして対価を得て生活していくのだから、それは自分で決めたことならそれは他人がなんと言おうと何であれ豊かなことなのかも。

限りある人生、明日からまた平山さんのように日々淡々と大事にしていこう。ラストの平山さんの表情と朝日が目に焼きつく。
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