にゃーめん

PERFECT DAYSのにゃーめんのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

変わり映えのしないルーティーンを毎日健康に過ごせること、仕事の合間に"木漏れ日"を見上げて微笑むことができる心の余裕を持つこと、それすらできなくなった側からみたら、今作はとてもとても贅沢で豊かで、恵まれた側の世界にいる人の話だと感じた。

カセットテープの洋楽、フィルムカメラでの風景写真撮影、数百円の古本、植物を愛でること、馴染みの居酒屋でのちょい飲み、行きつけの小料理屋のママとの会話、お金のかからないささやかな楽しみだけで充足する生活。

そんなささやかな楽しみに幸せを感じ、ニンマリする平山演じる役所広司を眺めているだけで癒される。

地味で質素な暮らしをしているオジさんの毎日を描写しているだけなのに、なぜこんなにも癒され、どうして憧れてしまうのか。

それは今作で描かれているような生活を今の東京で送ろうと思っても、トイレ掃除のみの収入では、実現不可能な"虚構の東京"を描いているからだ。

東京で暮らしつつも清貧に、足るを知る生活を送れるのは、物質的な豊かさを十分知っている(か、フルタイムで働かなくても十分な資産を持っている)からこそできる事であって、
本当に生活が困窮している人(作中のホームレスのように)は、そんなささやかな幸せすら得る事が出来ないのが、東京という街の本来の姿だ。

主人公の平山は、トイレ掃除の仕事をしなくても生きていける側の人間だったにも関わらず、物質的な豊かさを捨て、心の豊かさを優先する生活を始めたという事が判明する後半の展開は、ただただ平山が羨ましいと思ってしまっている自分がいた。

「この世界は、
ほんとはたくさんの世界がある。
つながっているようにみえても、
つながっていない世界がある。」

平山が親戚の子供に説いた台詞の重さ。

様々な立場の人々が利用する公共のトイレの掃除人の日々を描くことで、そういった"つながっていない世界"を描いたのは巧い。

見栄えは良くても、利用する方も使い方に戸惑い、日々の掃除やメンテナンスが明らかにしにくそうなデザインの公共トイレのバリエーションを知るにつれ、デザイナーと行政側のエゴが優先される公共物のあり方について、この作品を通してモヤることになるとは。

毎日同じように見えても、少しずつ変化していく"木漏れ日"のような日々を愛で、足るを知る生活が送れるようになるには、自分はまだまだ遠そうだ…。


2023/1/16追記:

平山の姪のニコちゃんが読んでいたのは
パトリシア・ハイスミス 『11の物語』(短編集)。

収録されている短編の一つが「すっぽん」という作品で、その作品の主人公がヴィクター(11歳)

ヴィクターは、裕福な実業家の父と別れた母との2人暮らし。
可愛がっていたすっぽんをシチューにされた事(それ以外にも母親に対しての鬱憤が溜まっていたが)に怒ったヴィクターが、すっぽんの仇に母を刺す🔪という結末の残酷話。

ニコちゃんの別れ際の台詞、「私もヴィクターのようになるかも」は、迎えに来た母親を刺してしまうかもという意味だったようで…。

うーん、それはたしかに"ダメ"だ。
にゃーめん

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