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PERFECT DAYSのidtakoikaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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役所広司の演技はやはりすごかった。説明的すぎない脚本も相まって、彼の表情ひとつひとつに惹きつけられた。彼が控えめに笑う時、同じくほっこりした気持ちにさせられた。

豪奢とはベクトルが異なるが、自然を愛で、本を読み、音楽を聴く彼の暮らしぶりはとても豊かであり、羨ましさを覚えた。ルーティン的な所作も見ていて気持ちがよかった。特に、玄関で財布や鍵を綺麗に配置し、出かける時にそれらを順番に手にしていく様は妙に美しかった。

このように、平山という人物や画的な美しさという観点では良い作品のようにも思えたが、制作の経緯や、女性の描き方という点では違和感を覚えざるを得ないというのが正直なところだ。

まずは制作の経緯について。そもそも自分は、「TOKYO TOILET」というプロジェクトに対して良いイメージを持っていない。以前働いていた場所が恵比寿にあり、作品に登場した1つ目のトイレはそのオフィスの真ん前に建てられ、それをきっかけにこのプロジェクトについて知り、近くを訪れた時にはこれらのトイレに行ってみる&使ってみるようにしていた。その中で、正直なところトイレとして使いづらいと感じることが多かった。気になってプロジェクトのWebサイトを見ていると、特に年齢が上めの建築家が手掛けたトイレほど「トイレだけでなく空間としてデザインし~」のような文言が並んでいた。それらを読みながら「まずはトイレとしての使いやすさを満たしてくれよ」と思った記憶がある。

少し話をそらしてしまったが、そんな「TOKYO TOILET」プロジェクトの企画として立ち上がった映画ということを知り、外向けの「イメージ」向上に走るより、実際に働いている方の賃金を上げるのが先だろと思っている。「気の利いた」設計のトイレほど、清掃するの大変そうだったし。作中でもそうしたメッセージ性を帯びた描写はあるにはあるが、そこまで切実な感じではなく、平山は淡々と、言い方を変えるとかなり従順な働き手として奉仕している。そのことに彼が苦悩したり、誰かが疑問を呈する場面は無く、エッセンシャルワーカーの苦しい側面に対する問題提起はほとんど見られない。所詮、「トイレ清掃員の日常描くとかいいじゃん」みたいな金持ちの道楽じゃんか、と思ってしまうところがある。

また、路上生活者を描写しているのも、企画の背景を踏まえるとなかなかにグロテスクだ。ミヤシタパークの再開発に伴って近隣の路上生活を排除した渋谷区。そこで実行されているプロジェクトの中で企画された映画で、路上生活者が描かれているというマッチポンプ。

次に女性の描き方について。なんというか「それおっさんの願望でしょうよ」と思う場面が多かった。フィクションなのだから、常に「正しい」描写をしないといけないとは言わないが、リアリティを重視していそうな映画にしては解像度の低さというか、そこまで低くは無いんだけどもっと高められるはずのところをおっさんとしての願望が優先されちゃっていないか?というのが気になった。
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