どびぃ

PERFECT DAYSのどびぃのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
「アパート住まいのトイレ清掃員が首都高で通勤するか?」というツッコミを入れたくなったが、鑑賞から数日経って思い直した。外国人の目線からすると、画が日本的に映るのではないだろうか。ビルの隙間を縫うようにクネクネ走る高速道路は、世界的にも珍しい(らしい)し、俯瞰で撮っても映える。

もうひとつは、これこそ本作の核にもつながる部分だが、光と影を分かつもの(=つなぐもの)としての存在ではないだろうか。映画や小説において二つの世界の境界として「橋」に象徴させる手法があるが、首都高は正にそれだ。都市というものは、ーーおそらく世界中どこでも、貧富の差が残酷なまでにエリア分けされている。ヒラヤマが住む地域は下町であり、富裕層が住むエリアではない。反面、首都高に乗って向かう仕事場(渋谷区)は、世界的にも知られた最先端の街だ。あえて単純化すれば貧と富、影と光、旧と新……。古ぼけたアパートと、それよりも遥かに高価で瀟洒に見えるトイレ。両者の隔たりを強調する装置として、首都高での移動シーンは必要だったのだ。

ではヒラヤマの日常や、銭湯や居酒屋の客が不幸に思えただろうか。同様に渋谷があのトイレのようにキラキラ輝いて見えただろうか。終盤の影踏みのシーンでも言及があったが、影にも必ず濃淡はある。同じく光にも。そのグラデーションこそが、我々が生きる世界の妙味なのだと作品は示唆していたように思う。ラストの役所広司の顔を長回しで見せるシーンも、喜びから哀しみまでのグラデーションを表情だけで見事に表現していた。

あともう一点。禅について言及するレビューがあるが、仏教的な観点は私も同感だ。小さな庵に住まう点が「方丈記」を想起させるが、エンドロールにおける木漏れ日の解釈が、「ゆく河の流れは絶えずして」の無常観とシンクロした。鴨長明は由緒正しい神官の家に生まれたが、故あって神職を諦め、出家して方丈の庵を結んだという。明示こそされないが、過去に何かを捨て清貧に生きるヒラヤマの人生がそこに重なる
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