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PERFECT DAYSのjun2kmのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
日が沈んで、仕事帰り、50席ほどの小さな映画館で見てきた。
何年か前、心を整えるって言葉が流行った。この作品の主人公は整った穏やかな生き方をしているようだけど、そうではないのかも知れない。
作品の最後のほうに、こんな場面があった。「影と影が重なると、もっと濃くみえませんか、、、。いや、そんなことはないですよね。」
その時の主人公の返事。「濃くなっていますよ。重なってるのに、濃くならないなんて、何も変わらないなんて、そんなバカなことがあって良いわけないじゃないですか!」おれ、その瞬間、突然、涙が溢れてきてスクリーンが滲んでしまった。
また、こんな場面もあった。いつものように写真屋さんで焼いてきた木漏れ日の写真を整理しようとする主人公。でも、その日は、写真を見もせずに途中で投げ出して、天井を見上げてねっ転がってしまう。姪の顔が映っているからだろうか。何気なく、いいなぁと思って撮った姪の顔。でも、そのあと自分の妹と出会い、過去の事を思い出して泣いてしまった主人公。もし、あの子の写真を見たら、妹と出会ったことを思い出し、泣いたことを思い出してしまうかも知れない。今度は今度、今は今。昔は昔、今は今、、、。そんな、簡単なことじゃないんだろうな。
あ、そうだ!主人公が車を運転しながら、涙がこぼれる場面!おれかて、運転してて泣くことがあるよ。でも、おれ、なんで理由もないのに、運転しながら涙が出て止まらないんやろ。
毎日、毎日、車を運転して出勤してるけど、おれの人生、何も変わらないんだ。何かを期待して生きて、苦しいときも頑張って働いているのに、何も起こらない。通り過ぎて行く人達もみんな、自分と戦いながら生きているんだろうか。信号待ちしてる間、おれ、道行く人ばかり見ている。
この作品で繰り返し出てくる木漏れ日。
木漏れ日はゆらゆらきらきらと、形は不定だけど、木漏れ日の中にいると心が整う気がする。木漏れ日は優しいけど、さらさらと重なり合った木の葉の向こうには、激しく燃える太陽があるってことだよな。
長く生きていけば、ただ、ぎらぎらしているだけで、どうしようもない私の心の中に、いつしか森が広がって、誰かが私と出会った時に、木漏れ日みたいに優しい人だと思ってくれることがあるかな、、、。(そう、なりたい。)
あ、もうひとつ。おれ、散歩して道端に落ちてる木のタネとか拾って帰って、鉢に植えて育てたりするんやけど、そこは主人公と共通してるなぁ、と。主人公みたいに女の人にはモテへんけどね。
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