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PERFECT DAYSのLzのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0

生活に生まれる彩りとは、一体何か。
何処かに、何かの、誰かの影を見る。それを追ってみる。日常に潜む自然の影に目を奪われ、そこにとどまってみる。そのモノクロの影でも、生活の彩りになる。彼はそれを、生きるという中で自分の中に落とし込め、一体となっていた。
美しい沈黙の間に入る台詞が、まるで詩の様だった。台詞が少ないからこそ、鑑賞後に思い出す言葉はとても鮮明に綺麗で、自分もあの日常に仲間入りしたように感じる。
嬉しいことがあれば素直に顔に出して笑い、気持ちが昂ぶれば素直に涙を流し、怒ることも厭いはしない。少ない対話の中、自分を抑えてるようで、切実な意思表示を感じるあの表情。彼の生活は愛おしかった。

陽光と影の映し方が本当に美しく、スクリーンいっぱいに映るだけで泣きそうになった。日常でさりげなく見かける妙に美しい景色を、普遍と特別を織り交ぜて映しているのがとても素敵で、印象的だった。一つとして同じ形のない影と、太陽の光の差し方。毎日同じ場所で同じ景色を見てるようで、毎秒必ず違う景色。それを愛おしく思い、目を輝かせながら見惚れる彼に、私もまた見惚れた。あれこそ、かけがえのない人生の美しい一瞬なのだと思う。

眠ってる間の幻想的なシーンにも魅了された。あそこだけの映像でも作品となる素晴らしさ。その日あった出来事、聞いたこと、見たものがモノクロで混ざり合い、不安定な情景となって揺れ動く。

エンドロールが流れたら帰ってしまうお客さんもいたけど、この作品はエンドロール後に映されるものを観てこそ締め括られる物語だと思うから、是非残って堪能し尽くして欲しかった。
私は妙に胸に来てしまい、思わず目に涙を浮かべながら噛み締めていた。あの映画に相応しい、美しい補足だった。私も、そんなものが見たくてこの世界に生きているんだった、と思わせられた。

顔だけを長く映し続けても画が持つ役所広司の演技が素晴らしかった。表情が変わっても言葉を発してもわざとらしさがなく、少なからずどの人間にもある二面性を違和感なく表出し、観てる側に一人の人間を愛させた。オーラのある顔つきなのに、あの映画の中では、しっかりと普遍的な生活に馴染んでいた。寡黙な人がするあの独特な真顔と、そこに隠れた柔らかい笑み。あの表情は役所広司にしか出来ないのだろうな。

カセットのチョイスも映画そのもののテーマソングとしてあまりにぴったりで、観てる側の気分にも寄り添ってくれているようで、心地良くあの映画に身を任せられた。
車の中で二人で音楽を聴くシーンも大好き。ただ耳を傾けているだけで、相手と呼応できるあの空間は、珍しくない様で、人生の中では貴重。彼にもその時間があったことが、嬉しく思えた。

観る前はきっと眠くなってしまうだろうなと危惧していたけれど、こんなにも終始引きつけられる映画であったことに感動し、映画館で観られたことを喜ばしく思う。大きな出来事が起こるわけでもないのに、だからなのか、終わってほしくなかった。ずっと観ていたかった。
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