Lz

エヴォリューションのLzのレビュー・感想・評価

エヴォリューション(2015年製作の映画)
3.8

かなり好きな作風だった。どのシーンも脳裏に焼き付いて、一度観て終わるだけじゃ勿体無いほどの取り憑かれる美しい畏怖を目の当たりにした。

あんな風変わりな物語の中での演技を、あの少年たちにどう説明して、彼らはどう理解して演じたのだろうか。子どもが演じるには中々に攻めた内容で、こちらも追いつくのが大変だった。けれど少年たちもごく自然にあの雰囲気に取り込まれていて、本当にあの孤島で彼らの暮らしがあって、それを覗き見している気分だった。

何を題材にしているとか、何を象徴、表現しているとか、そういうのを想像はできても確信を持てる知識や脳がないので、色々な方の考察を見て何とか溜飲が下がった。それでも一度噛み締めるだけじゃ難しかった。もう何度か、あの世界に入り込みたいと思う。

幼く未熟な少年たちの、無垢な瞳と穢れを知らぬ肌。それらが未知に侵蝕され、利用される。
生に満たされた未発達な身体が、生に蝕まれて萎れていく。死に近づく度に、退廃的な官能美が増す世界。
あの世界では彼らはずっと同じサイクルにあり、本来の世界ではあり得ない形で生命が宿り(宿らせ)、人間を模倣し、若しくは人間を超越して、命を繋ぐ。それに利用される幼き少年たちの身体。利用するだけならただ捕らえておけばいいだけに思うが、わざわざ機械的な生活を与え、母親を用意する点が人間の考え得る思想で、その二面性が気持ち悪かった。

不気味でひたすらに不穏で、人が生活していくにはあまりに不安感に満ちた空間がどこまでも広がる。そこで生活を続けることを厭わない姿こそ、彼女たちに人間とは違う感覚が備わっていることを色濃く表している感じがした。毎日同じことを繰り返し、規則的で、機械的。繁殖の為だけに生きる。私は人間以外の動物の行動原理がわからないけれど、人間として、他の生き物に対してそんな生涯を送っているイメージを持っている。虚しく思えるけれど、人間があまりにも余計な行為が多いだけのことだと思う。その“余計”を排除した生涯を、人間の姿で再現されると、やっぱりどうにも不気味で、しかしあの退廃的な美しさは、人間には得られないものなのだろうなと思った。

ステラ役の女性の顔つきと表情があまりにも魅惑的で、画面に出てくる最初のシーンから、グッと引きつけられる力があった。ステラは果たして、他とは違う感覚を持っていた女性なのか?そうではなく、ただニコラという少年に感覚を惑わされただけなのか?ただどちらともが重なり、運命的に二人が交わったことで、破壊、破裂、爆発…あるいは解放が起きた。ステラとニコラはまさに運命の二人だった。母性だとか、愛寵だとか、思慕だとかを全部ひっくるめて、この世のどこを探しても二人の間にだけしか流れていない情がそこには在った。ニコラの命こそ、二人の間に宿った生命だった。

ニコラとステラの水中のシーンは、類を見ないほどに刺激的で、危うくて、脳が揺れる美しさだった。まるで、胎児が羊水の中から押し出され、生み出されたかの様な…。二人きりのシーンはどれも、絵画から逃げ出してきたかの様に思わせる非現実的な美しさがあった。

最後にはまるで、あの世界が白昼夢であったかのように茫然とした。ニコラはきっとこれからも、夢の中であの世界に囚われ続けるのだろうな。
Lz

Lz