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オーディションのLzのレビュー・感想・評価

オーディション(2000年製作の映画)
3.0

全然期待してなかったけど、Jホラー特有の大好物の要素が結構あってそれを味わえただけでも満足だった。
退廃的な空間の埃っぽさ、黴臭さ、それらによって誘発される、揺れ動く官能美。細く骨張った身体は、畳の上ではより一層恐怖を煽り、耽美でさえあった。黒電話を前に項垂れながら待ち焦がれる姿の不気味さは素晴らしかった。あの場面が一番好き。

痛みは何よりも直接身体に響き、何よりも正直。それを己の身をもって知った彼女だからこそ、痛みを信じ、痛みによって求愛した。それが一番、伝わると信じていたから。
青山の甘い言葉は、はなから麻美の誘惑の罠に掛かっていたことによる妄言だったかも知れないが、麻美が青山の言葉に惹かれたのは嘘ではなかったのだろうなと思う。最後のシーンで反芻される、麻美の青山に対する言葉、そして青山が麻美に掛けていた慰めの言葉。この二つに嘘はなかったし、少なからず愛を感じた。

人を拷問できる人間の神経はいつまでも理解不能だけど、麻美みたいに、言葉は信じられないけど痛みは信じられるというのには少し合点がいく部分があった。物理的な痛みだけじゃなくとも、精神的な痛みもそうで、すぐに嘘に隠れる言葉なんかより、痛みは何より本音が隠れていて、裏切らない。麻美には、その過程が心地良かったのだろうな。彼女は、そんなことでしか愛を確認できない、哀れな女性だった。でも彼女はきっと、元から狂っていたわけではないはず。

中盤までは不気味でミステリアスで、掴みどころのない展開が続いて良かったけど、種明かしされる終盤はやっぱだらける感じがした。幻覚的な演出もあったけど、もっと眩惑させられるような雰囲気も欲しかったな。バレエ教室の中の色合いは印象に残っていて、あの何とも言えない橙色はとても不安な気持ちにさせられる。現実世界から切り離された場所に来てしまったような不穏さ。
蛇足に感じる部分が多くあった分、Jホラー好きとして唸る部分はいくつか見つけられたので良かったかな。
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