OSON

PERFECT DAYSのOSONのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
基本的に同じ日々の繰り返し。平山はこの生活を好きでやってるのか?仕方なくやってるのか?もしくはそのどちらでもないのか?

観てるこちらとしては、お寺の僧侶の日々を見ているようで気持ち良い。無駄がなく、凛として生きてる感じがする。なんとなく、平山も好きでやってるように感じる。

ずっと同じことを繰り返しているように思えるが、当たり前だけど同じ日などというのは1日としてない。現にこの映画の中でも大きな変化も起こる。姪っ子が突然家出してきて「泊めてくれ」と訪ねてきたり、同僚の若い男に金を貸さざるを得なかったり、密かに想いを寄せる?小料理屋のママが男と抱き合う所を目撃したり。

彼の気持ちを探るヒントが、姪っ子を引き取りにきた妹とのやりとりにあった。

妹は運転手付きの高級車で平山のボロアパートにやってきて「兄さん、こんなところに住んでるのね」と言う。平山は「まぁな、なんとかやってるよ」みたいな照れ笑いを浮かべる。「本当にトイレ掃除なんかやってるの?」と憐れむ視線と共に聞く妹に「うん」と頷く平山。俺はこの仕事を誇りに思っている、と言わんばかり。「お父さんに会いに行ってやってよ。もう昔みたいな感じじゃないから」と妹。平山は下を向き首を振る。これまで見せてきた僧侶のような凛とした雰囲気とは違い、何か感情が渦巻いてるようにみえる。絶対に行かない、と少し子供のようだ。妹が姪っ子を連れて高級車で帰って行く。平山は下を向いたまま泣いている。

きっと平山は由緒正しき家庭の出身なんだろう。妹の話ではあるが、運転手付きの車に乗るというのはただの金持ちではない。そういう世界を知ってる人の生き方だ。そしてきっと数年前に平山は父と揉めたのだろう。想像でしかないが、「お前もしっかりしろ!そんなことではそこらへんの清掃員かなんかになってしまうぞ!そんなものになったら終わりだぞ。毎日毎日、なんの変化もない生活、光が当たる物にできる影みたいな人生だ。光が当たる側の人間になれ!」と。(念の為付け加えておくけど、僕の意見じゃないです、想像上の平山の父親の言葉です)。平山はたぶん思った。「上等じゃないか。清掃員、素晴らしいじゃないか。あんたよりもよっぽど人のためになる仕事だよ。影みたいな人生?影だって色んな影があるんだ。影と影が重なったとき、とても美しい模様を描くんだ。人の上に立つことしか考えてこなかったお前はそういうことを知らないだろう?」と。…なんか想像してたら熱くなってきたぞ(笑)。

劇中でも平山は影にとても執着している。彼の趣味も影ではないが木漏れ日を写真におさめることだし、彼が観ているであろう夢?の描写も影のようにモノクロだ。そして詳細は省くが、おじさん同士で影踏みをした時に「影は重なっても濃くなったりしないですね」という相手に「そんなはずない。そんなことがあってはならない」と少し興奮したようにみえた。

彼があの生活を始めたのは、当初父親に対する怒りからだったのではないだろうか?由緒正しき家を身一つで出て、あのアパートに住み、清掃員の仕事を始めた。怒りから始まった生活だったが、シンプルな暮らしをしているうちに怒りは薄れて日々の小さな変化にも目が向くようになり、楽しくなってきたのではないだろうか?これはこれで、やっぱりいいじゃないか、と。

そんな中、妹に「父はだいぶ弱っていて、昔の面影はない」と聞かされて、もともとこの生活を始めることになったきっかけの存在が無くなりかけてることに、涙したんじゃないんだろうか?俺は何をやっていたんだろう。父親がいなくなったら俺はどうしたらいいんだ、と。

そして最後のシーン。なんとも言えない複雑な表情をした平山の顔がアップで長回しになる。目を真っ赤にして、幸せそうな、怒ってるような、悲しんでいるような、本当に複雑な顔をする。あの顔があるから、無駄のないシンプルな暮らしっていいよね、では終わらない感じがする。

すごく面白い映画でした。
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