MM65

落下の解剖学のMM65のネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画を見たというよりも、参加したという感覚に近いかもしれない。面白い話を聞かせてあげる、というより、あなたが考えて、と観客に能動的に参加させる映画。

事実など存在しない、解釈があるだけ。という哲学者の言葉を思う。

わたしはこの言葉に世界の生きづらさと生きやすさのヒントが凝縮されてるなぁとよく思う。人は人の見たいようにしか人を見ないので、究極的に、人と人は理解し合うことはできない。でも、そのことを知っていれば、わかりあう努力をすることもできる。

ダニエルの存在が、美しいのに不気味である。あんなに賢そうな子が、可愛がっている飼い犬にアスピリンを飲ませるだろうか?母が帰ってきた時の抱きしめ方は、どちらかというとダニエルが子供を抱きしめる側で、まるでサンドラはそれに甘える子どものようだった。微妙な違和感が、わたしにこの子どもの完全犯罪だったのではないか、と疑念を抱かせさえする。彼に動機はないように見えるが、映画は脚本とカメラによるシーンの切り抜きの寄せ集めでしかない。

結局、死の原因究明などはこの映画のテーマではない。事実なんてものはなく、何を信じるかで、自分の世界を成立させるしかないのだ。

映画のラストシーン、犬が寄り添うのが印象的だった。獣だけが何の偏見もなく寄り添ってくれるのかもしれない。
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