MasayukiShimura

落下の解剖学のMasayukiShimuraのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
見た直後よりも、劇場からの帰り道で「あれはなんだったんだろう」と考えているうちに評価が爆上がりしていきました。

一人の男の転落死という事実をめぐり、法廷で次から次へと明かされるその人なりの真実。この映画のすごいところは、152分という長尺でありながら、それを見届けた観客の心の中に、総体的な真実が何一つとして立ち上がらないような作りになっているところだと思います。

「あれはなんだったんだろう」が次の「あれはなんだったんだろう」を絶えず呼び続けていく。男が落下し、夫婦関係が落下し、自意識やプライドが落下していくのを見るにつれ、見ているこちら側も虚実の迷宮に落下していくかのようでした。

ザンドラ・ヒュラーの鉄壁のごとき演技も圧巻。その表情からは、彼女が殺したのか否かだけではなく、そもそもこの人は夫を愛していたのかということすら読み取ることができませんでした。というか、ザンドラにとっての愛ってなんだったんだろう・・・。

一つの結論やクライマックスに導かれないタイプの映画をお求めの方にぜひオススメの一本です。
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