メランクさん

落下の解剖学のメランクさんのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
5.0
ついに来ました、ル・シネマ!
渋谷TOEI行ったことなかったからいろんな意味で新鮮でした!

なんの予備知識なしで観賞しましたが、
なんと倦怠夫婦ものじゃないですか!
明らかに倦怠夫婦ものの新たな傑作でした!

変なタイトルだなぁと思っていたけれど、
見ているうちにそのタイトルの意味がわかります。

冒頭で落下する夫は夫婦関係のメタファーであり、
夫婦関係が冷え込んでいく過程が裁判の場で「解剖」され、
お互いの中に溜まっていたものが曝け出されていく。
「マリッジストーリー」を見て感じた痛々しさ、
言葉にされたときに削ぎ落とされる愛情や思いやり、
そんなものを再び呼び起こされました。

しかしマリッジストーリー以上に醜悪なのは、
すべてを知らされ、夫婦の命運を分けるのが息子自身であるということ。
原因の一つであり、父を失っただけでなく、母も奪われようとしている。
その息子の決断にしびれました。

作家が文字を使って表現するのと同様に、
裁判や精神科医もまた言葉によって真実を作ろうとするんだよな。
だから我々はそのどれを真実とするか、
心で決めねばならない。

長尺も気にならないスリリングな内容で、
非常に語りがいのある作品でした。