カッパロー

落下の解剖学のカッパローのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

分からないことは、想像で埋めるしかない。

152分にも渡る長編しかも法廷劇で絵面自体は地味、ということで観る前は一定の退屈さを覚悟していた。が、その予想は裏切られた。

主人公のサンドラはまさしく信用できない語り手である。夫の死の瞬間は、物語全体を通じて常に伏せられ続ける。結局のところサンドラが殺したのかは最後まで分からない。(殺したのだとしたら子供の証言以降の最終幕が意味を持たなくなるため、強く自殺が示唆されているものの。)

その結果、物語には終始拭いきれない緊張感がもたらされ、我々は些細な証拠・描写がないかと目を皿にしてスクリーンを眺めることになる。これはまさに、劇中で描かれた傍聴席の観衆であり、テレビニュースで事件を面白がるコメンテーターと同じ目線だ。我々の存在すらも巻き込み圧巻の法廷劇を展開する様は、さすがアカデミー賞ノミネート作品といったところか。

子供の心理も丁寧に描かれ、ともすればサンドラが信用できないせいで見失いかねない物語の安住点を我々に提示してくれた気がする。最愛の父を失い母が世界から殺人犯だと疑われている中にあっても、裁判に向かい続ける姿は健気で憐憫を誘うものだった。

とかく事実か事実でないかを争いがちな今日この頃。本作で繰り返し言われる通り「分からないことは想像で埋めるしかない」わけで、我々も日々想像で好き勝手なことを言いがちです。しかし、結局のところその権利があるのはそれが仕事の人と当事者だけなので、分からないことには口を慎むべきだよなぁ、と思いました。
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