イトウモ

枯れ葉のイトウモのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
3.8
こうして晩年になってみて、あらためてカウリスマキはぜんぜん小津にもブレッソンにも似ていない。小津の超然もブレッソンの狂信もない。あくまで人間が好きでメロドラマをやるからこそ、両者のような極端な手法を決して使わないのだろう。
とても普通の映画だった。

普通というか、これだけのシンプルさを成し遂げるための洗練にこそ敬意を払いたいと思う。
今までの作品と比べて意外だったのはスーパーマーケットのシーンが多いこと。ああいう雑多な陳列棚、透明ビニールにパッケージされた無機質な食品、画一的な冷たい値札はおよそカウリスマキらしからぬものばかりではないかと思った。
主役の女はクビになり、次に雇われた飲み屋の店主もクスリの売買の斡旋ですぐに捕まる。彼女は顔の見えない上司に雇われて工場で働くが、恋人たちはいつまでも出会えない。
これで、カウリスマキらもう『浮き雲』みたいないかにも映画的にコントロールのしやすい個人経営の小さなお店、というセットっぽい空間にリアリティを見ていないのだと思った。見えない資本の流れにずたずたにされる労働者たち。その生活のリアリティを描くメロドラマ作家なのだ。
謎のファーストショット、レジ台に並ぶ生肉の意味がわかるのは映画のラストだ。あれがカウリスマキなりのモダンタイムズ、冷たいベルトコンベアなのだと思った。

野暮だけど、犬の名前が明かされるラストショットは「街の灯」ですね