帰ってきてくれてありがとう、カウリスマキ。
地を這い泥水を飲んで生きる私達市井の人々をいつも残りのとぼけたユーモラスさで描くカウリスマキ映画。しかし力強く古き良きメロドラマであろうとする事、人と人の間に芽生える愛を大切に描こうとする事こそが現在の最悪な世界に対する強い意志表明だ。
前作「希望のかなた」で難民問題に向けられていた監督の強い怒りは、今回ロシアのウクライナ侵攻に向けられている。その想いは観客の中で今のパレスチナにも繋がっていくだろう。
監督がこうした最悪で真っ黒で圧倒的な現実に対して、引退を撤回してささやかに生きる人々の姿を通して意志表明してくれている事が本当に素晴らしい。
スーパーを一緒にクビになったヒロインと友人が別れ際に見せるささやかな動きに涙腺が緩み、ラスト５カットのあまりの美しさに思わず口を手で覆った。
