整えられた、文句のない、平和すぎる日常。
それが”残酷すぎる”だとか、”眼も当てられない”だとかは、そんなことは決してない。耳を澄ませば聴こえるかもしれない何かを’日常’にしてしまうのはあまりにも容易いことで、「関心領域」、それは逆を言えば「無関心への寛容さ」ではあるが、この映画は、その無関心について殊更取り立てるでも、騒ぎ立てることもない。
QAでは「僕はこの映画を作った監督である以上、明確な言及は避けたい」とジョン自身あまりにも堂々と言い切っていたが、別に、この映画から何か教育しようだとか、非難しようだとか、はみ出る意欲を感じることはない。それこそ、観客が気づくでも／気づかないでも、この映画は何も動じない。「見えるものが全て」と言う者には世界はそれで全てだし、「感じるものが全て」と言う者が感じたものを否定するわけではない。
世界は、残酷にもあまりにも多くのものが並行に突き進んでいる。
しかし、アートシネマの枠組みから飛び出さずに、その水面下でぐつぐつと煮えたぎる、どす黒い何かは、まるでマグマのように、あまりにも熱い温度で、”何か”の機会を伺っているようにも思える。
しかし、それも私の”かもしれない”の感覚的な域を越えることはない。これこそが「悪の凡庸」なのかもしれないなぁ、と思いを馳せた。
