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関心領域のmaroのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.5
2024年日本公開映画で面白かった順位:54/59
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★☆☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★☆☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

やっぱりと言うべきか、アカデミー会員や批評家が好みそうな映画だった(笑)
エンタメではなくアート寄り。
しかしながら、普段自分がどう生きているか、何を考えて生きているかによって受け取り方が大きく変わるだろうなとも思う。
そういう意味では、奥が深い作品とでも言うべきかな?

映画として観たとき、面白かつまらないかと言ったら、個人的にはつまらない部類に入る(笑)
だって、幸せな家族の日常が、何の事件もトラブルもなく、淡々と映し出されるだけなんだから。
始終退屈よ。
エンタメ寄りの映画が好きな人には、刺さらないんじゃないかな〜。

とはいえ、ただ「つまらない」の一言で片づけてしまうのはもったいないぐらいの設定とメッセージ性があった。
この家、敷地は広く、大きな庭もあり、プールも付いている上に、一家の大黒柱であるヘス(クリスティアン・フリーデル)からしたら、職場まで徒歩2秒という好立地。
なんだけど、なんとアウシュヴィッツ収容所の隣に位置しているんだよ。
隔てているのは塀1枚。
この家族がごはんを食べ、団欒し、ベッドでぬくぬくしている間にも、塀のすぐ向こうでは数多くのユダヤ人が虐殺されているのだ。

ところが、この映画では虐殺シーンは一切ない。
音響として人々の悲鳴や子供の泣き声、銃声などが響き渡り、煙突からは煙がモクモクと出ているのみ。
それでも、この家族はそれらに気を留めることはない。
妻はユダヤ人が持っていたであろう毛皮のコートに袖を通し、子供たちは同じくユダヤ人のものであると思われる金歯を物珍しそうに見ている。
まるで、恐竜の歯を観察するかのように。
ヘスが家族にどこまで話しているかは知らないけど、少なくともこの家族にとっては、ユダヤ人がどうなろうがまったくもってどうでもいいことなんだ。
毎日聞こえる悲鳴や銃声だって、現代で言うところの隣の家から漏れてくる音楽や道路を通る車の音ぐらい日常の一部なんだろうね。
第三者からしたら、「だいぶバグってんな」とは思うけれど、実際そこに住む彼らからしたら、この環境に慣れた上で、自分たちのこと以外にはとことん無関心である。
それを怖いと感じるかどうかは、観ている人の価値観や生き方によるだろう。

で、この慣れや無関心っていうのはこの映画のような特殊環境に限った話ではなく、我々の普段の生活にも当てはまる。
仕事でも何でも外から見たら「これ絶対おかしいだろ」っていうことでも、中にいる人は慣れてしまって何も思わなくなっていることがあったり。
今こうしている間にも戦争や病気で亡くなっている人、困っている人はいるのに、特に何かするわけでもなかったり。
だから、人間って社会的な生き物という割には、案外自分と身近な人のことして見えてないし考えてないし興味すらないのかなって。
別にそのことが悪いっていう話ではないけれど。

そんなわけで、アウシュヴィッツ収容所の隣に住む家族という目を引く設定ながらも、描かれているのは人間の在り方という本質的なメッセージだったかな。
当時のユダヤ人の状況をよく知る人だったり、歴史的な知識が多い人だったり、見ず知らずの困っている人に寄り添えるような人には、より一層重くのしかかる作品かも。
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