ユート

関心領域のユートのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
アート映画の色合いが濃ゆいと感じ、面白いか面白くないかはさておきだが‥。あえて言うと面白くはないけど、観てよかった作品であることは間違いない。

冒頭から攻めてくる。黒地の画面にタイトルが出てくるが、徐々に見えなくなり、しばらく黒地の画面が続く。画面の端には、目を閉じたときに皮膚を通して感じる光のような暖色が微かに見える。そして、何かの音が聞こえる。なんだったんだ‥。この謎はラストで明らかに(個人的な見解だが‥)。

アウシュヴィッツ収容所の隣で生活するある家族の話だが、各々が関心をもっている事柄やその度合いが描かれているように感じた。母親が1番深刻かな。自分が思い描く理想の生活のことしか頭にない。夜泣きする赤ん坊のことすら気にならないなんて‥。家政婦さんに任せてるからというのもあるかもだが‥。

一方で遊びに来た祖母はまともで、あの家から突然いなくなってしまう。庭を案内されている最中に時々収容所から聞こえる音に反応し、度々壁の向こうを見るのが印象的。

何気ない生活が流れる中で収容所の不穏な空気は常に感じるのだが、淡々と時は流れていく。

正直、父親が転属になって以降、「さすがにもう観続けるのしんどいなあ‥」と思っていたのだが、冒頭の黒地の画面で本作のエンドロールが流れ始める。

冒頭の黒地画面との違いはかすかに聞こえていた物音がハッキリと聞こえるようになっているのだが、その音がなんとも不気味で不穏な音だった。おそらく叫び声を編集したものだが、「ああ。観てよかった。でも、しんど‥うわあ」と何とも不思議な気分になった。

また、エンドロール手前で現代のアウシュヴィッツ収容所の映像が差し込まれたのだが、父親が不穏な未来を感じた、つまり、今の行いに関心を持ち始めた予兆なのではと思った。

ラストの不気味な音は、私たちの価値観では2度とあってはならないことだと認識しているがゆえに聞こえ、さらにその音がどんなに聞き苦しいものであっても耳を塞いではならない。正面から受け止めないといけないというメッセージなのかなと感じた。ホロコーストに関連するハンナ・アーレントの“凡庸な悪”を肝に銘じて、主体的に感じ考え適切な行動をとっていきたい。

最後に音の使い方が本当に肝になる今作。アカデミー賞をとったのも頷ける。ごく普通のスクリーンで鑑賞したが、ドルビーシネマで観たりしたらまた違った感じ方ができそう。IMAXなどで公開しているところはあるのかな?

万人にはおすすめできないけれど、いろんな人に観てほしい。また、いわゆるエンタメ作品ではないので、ぜひ映画館で。配信ではかなりハードルが上がりそう。一見の価値あり。
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