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関心領域のyuzameのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.0
初週の週末だからなのはあるけど
凄くお客さんが入ってた。
楽しいテーマではないのに
2人組や3人組の友達同士で来てる
そこまで映画好きには見えない若い人が
多く来ていて、意外だった。
A24ブランドで
スタイリッシュなポスタービジュアルなのが
響いてるのかな?良い事だと思う。

音の演出が素晴らしい事は知っていたので
初めからそこには注意しながら鑑賞した。
あの家の暮らしの背後には
収容所から聞こえる音が常に鳴っていた。
24時間絶え間無く。

脳は耳で感知した音を精査している。
入ってくる膨大な量の音情報を
全て平等に受け止めると
必要のない音が大きすぎる。
脳は「要らない」と判断した音は小さくする。
鳴り続けている音でも、
意識を向けると聞こえてきて
意識を逸らすと聞こえなくなる。
体感としてみんな知っている。

耳だけではないのだろう。

人は、見たいものだけを見たい。
知りたいものだけを知りたい。
聞きたいものだけを聞きたい。

都合の悪い事に意識を向けなければ
幸せに暮らせる。
幸せを求める事は悪い事なの?

潤沢な食材。
選んで持ってこられた衣類を分け合う。
何かの灰を撒いて耕した庭に咲く美しい花。

「アウシュビッツの女王ねって言われちゃった」
民の暮らしになど関心が無い女王。

作業場にリンゴを仕込む少女の
家のシーンによって
あの場所には異様なニオイが
立ち込めていた事を知る。
そしてヘス一家は、
ハッキリとした意思を持って、
収容所の存在を無視して
暮らしているんだなと改めてわかる。

少し情緒が不安定な娘。
弟を閉じ込めるイタズラをする兄と
それをマジで怖がる弟。
番犬が吠えまくっている声に反応する
ペットの犬。

見たいものだけ、聞きたいものだけ。
知りたいことだけ。
近年、この「だけ」を満たす技術が
格段に高まった。
そのことに自覚的でいないと
偏った世界で生きる事になる。

自分の手にしているものがどこから来たのか。
自分の得ているお金がどこから来たのか。
そのお金を何に使うのか。
自分を正当化する事はいくらでもできる。
幸せになりたいだけと。
「まずは愛する自分」「まずは愛する家族」

自分が逆の立場になった時に後悔しても遅い。
って言う事じゃなくて、
やっぱり社会に目を向けない事は罪だ。

彼女が手にした毛皮のコートは
当時の正当な手続きを踏んで
彼女の元に来たものだ。
だけど今の私から見ればあれは明らかに
奪ったもの、盗んだものだ。

今、正当な手続きで私の元から
税という形で集められたお金が
どう使われているか。
その不当な使い道の先に自分がいないか。
盗んだ金で生活してないか。

「虐殺から目を逸らすな」も勿論だけど
「人から盗んだ幸せじゃないのか?」
というメッセージの方が
私には刺さった。
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