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関心領域のmanaminieのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
冒頭から挿入される真っ暗な画面、効果音だけが響く時間。
音が怖すぎるのですが、自宅だとこんなに効果的に聞こえないと思うから映画館で見てよかった。

自然豊かな美しい光景のなかに、ずっと誰かの叫び声や怒鳴り声、泣き声や鳴き声が聞こえてきて、頻繁に焼却炉から煙が流れ、煙草の煙とまざる。遺灰や骨の流れる川で泳ぐ。耐えられず去る人もいる。それを「最高の環境、夢見た理想の暮らし」と語る妻の不気味さ。
自覚的に搾取しているからといって、何も感じていないわけではない。
妻は使用人に当たり散らし、押収した服を着て、死者の口紅を塗る。子どもたちは”ブリキの太鼓”を叩き、残酷な遊びを覚える。
(ここで私はギュンター・グラスを思い浮かべる)

夫ルドルフは真剣に人間を効率良く殺す方法を考案したりプレゼンしあっていて、その段取りを協議する会議もあり、彼らにとってこれがビジネスなのだということがはっきりとわかる。
おそらく他者から奪ったであろう紙幣を分類しながら、自分の特権は守りたいと電話し、手紙を綴る。

ルドルフは毛並みの良い馬を愛し、犬を撫で、ライラックの枝ぶりを気にかけて、夢遊病の娘には深夜「ヘンゼルとグレーテル」を読み聞かせる。グレーテルが魔女を焼く。まさにその時間に、ルドルフが焼却しようとする人々にりんごを密かに届ける少女だけがネガフィルムで映し出される。
少女は収容者の作と思われる太陽と体温に関する曲をピアノで弾く。
(ここで私はパウル・ツェランを思う。"君の金色の髪のマルガレーテ 君の灰色の髪ズラミート")

氷の鉤十字の彫刻が飾られたパーティ、家族のもとへ帰れると喜ぶルドルフが不意に階段で吐き気をもよおす。すると月が鍵穴になり、現代のアウシュビッツ博物館になる。炉を掃除する職員。
(ここで私はガザ侵攻を見ずに死んだボルタンスキーを思う。)

そしてまたカメラは1944年の階段へ戻り、廊下で彼がこちらを向く。私たちを見つめる。パレスチナに、ウクライナに、ハイチに、そのほか世界中のたくさんの事件と、身近な格差と差別に無関心を装いながらスクリーンを見つめている私に、壁の向こう側とは何なのか問いかけてくる。

また画面が真っ暗になり、不穏な音階だけが甲高く鳴り響く。
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