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aftersun/アフターサンのmanaminieのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.6
すごく詩的というか、メタフォリカルな映画だった。一度観ただけではよく分からなくて、気になったシーンごとに見返して理解を繋ぎ合わせていった。

不眠症(喫煙、モーニングコール、瞑想や太極拳)、クイア(覗き見するキス、故郷に帰らない決意、同性との同居と商売)、虐待経験(誕生日後のおもちゃ、護身術)、希死念慮(海、柵、車)を思わせるような描写が散りばめられているし、経緯不明の骨折や怪我や号泣、「40歳の自分が想像できない」発言からは不治の病なのかな?とも思った。

お金がないということが真実だからこそ不穏な空気になったし、悲しいけどお金がないことは人間を追い詰める大きな要素のひとつなんだよね…

「電話じゃ話せない」発言や、ホテルでも泥プール後の海でも真剣に娘の話を聞こうとしていたこととか、謎に高い絨毯買うのは怖かった(現在のシーンも絨毯から足が浮いているみたいに一瞬みえて怖かった)

ポール・メスカルの背中で見せる演技の凄み。

ソフィのほうはキス以外にも父母が電話している間にお手洗いで性的な会話を盗み聞きしたり、プールサイドのカップルを目撃したり、男の子とファーストキスしたり、思春期だったなー

「レイヴっぽいクラブなのに精神世界」という見慣れないシーンが挿入される一方で、逆さまに反転してノックシーンに繋がるようないわゆる分かりやすい深層心理的な描写もあって不思議な映画でした。

ハンディカム、ウォークマン、水中カメラ、ポラロイドといったノスタルジックなガジェットに、ブラーやR.E.Mの曲が流れるのが90年代感があってエモでした。
しかも全部ちゃんと意味があるという。画質が荒いシーンと、普通のシーンの差、音楽の歌詞にもたぶん。

あと2010年の熱海みたいな(失礼)お世辞にも華やかとはいいがたいトルコの地味なリゾートの、弛緩しているけど色彩だけは美しい空気感が良かった。

すでに色々な人が色々な考察を書いてくれているんだろうけど、ラストシーンはひたすら不安で、でもなんの確証もなくて、空虚さで胸がつぶれそうになった。
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