『関心領域』 (2023)
🇬🇧UK 🇵🇱ポーランド 🇺🇸USA
105分
第二次世界大戦中の、アウシュヴィッツ収容所(ポーランド在)周辺を描く
原作小説有り、監督・脚本は、『アンダー・ザ・スキン 種の補食』(2014)の俊英、ジョナサン・クレイザー
映画は、漆黒の画面から始まる
漆黒の時間が長いので、ラース・フォン・トリアーの傑作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)に比するかのような不穏なざわめき、そして、事実、本作も比類なき傑作であった
漆黒の画面に、和音に寄る音楽が奏でられる、その音に不協和音が重なり、やがて音は小鳥の囀ずりなどの自然音に変わる
これは、関心領域というタイトルと、このファーストシーンから、人間の認識に関することがテーマだと分かる
映画は、ある瀟洒な邸宅から外を映し出す
キャメラの位置はほとんど中央に設えており、だから、左右対称みたいな画面になる、そして、超広角レンズで捉えられているので、焦点震度が深い
室内のテーブルなどは、台形に曲がって映っており、不気味な違和感がある
人物のアップもなく、その歪な空間、時代が主役なのであろう
定点カメラなので、監視カメラ的でもある、新たなる神の視点でもあろう
さて、その瀟洒な邸宅にルドルフ・フェルヴィナント・ヘス(有名なフドルフ・ヘスではない)に住んでいる
自然豊かなその邸宅の隣は、なんとアクシュヴィッツ収容所であり、ヘスは収容所の所長であり、妻と、五人の小さな子供たちと住んでいる
一見長閑に見える邸宅の様子なのだが、収容所からの、叫び声、指令の声、そして銃声などの音が、洩れ聴こえる
その音に慣れてしまっていて、ヘスの家族は平穏に暮らしてしまっている
焼却炉からの、焼き肉の臭いも凄いはず
慣れって怖い
赤ちゃん👶の方が帰って慣れていないのて、ただならぬ雰囲気を怖れて、常に泣いている
平和な家庭の横には、地獄の収容所が建っている、並立しているという事実
まるで、デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』(1986)の地上と地中を回転させたような、奇妙さと残酷さがあるが、これが実際に起こった事実である
ナチスドイツの恐怖政治下においては、人間は無関心に成らざるを得ないのであろう、しかし、やはり慣れって怖い
ヘスの嫁なんかは、この邸宅を快適に感じてしまい、ヘスが転勤に成りそうな時に、上司に或いは、ヒトラーに文句を言ってと宣うので、本末転倒しているし、
吐き気がする
アウシュヴィッツの狂気と恐怖については、事後の死体の山のおぞましきは、アラン・レネの『夜と霧』(1955)などのドキュメンタリーで、観てきた
そして、収容所内部の囚人たちの悲劇のドラマは、やはり、スティーヴン・スピルバーグの『シンドラーのリスト』(1993)が白眉であった
この映画の、赤に収束される場面は、『シンドラーのリスト』への記憶とオマージュであろうか
それにしても、この『関心領域』に於ける収容所内の微かでリアルな音で、凶行を想像させる演出、その独創性は素晴らしいアプローチである、
『アンダー・ザ・スキン』の監督さんらしいアプローチである
ドイツでのパーティに於いて、上からの視点、従来の神の視点に成って、ドイツ人たちを見下げながら、毒ガス室を思いつくヘスには、吐き気がする
人類のおぞましき、神がいるのなら、どう思うのであろうか
ただし、映画の最後の方式にはヘス自身も吐き気をもようしていたので、彼も深層では、あの異常な世界は関心領域であったのだ
全てを関心領域にすると、地球上には悲劇が溢れているのだから、発狂するとは思う
しかし、やはり、関心領域を常に死守して行かないと、人間では無くなってしまうし、世の中の可能性も消えてしまう
そんな意味では、ラストシーンも優れており、感慨深い
大傑作だよ
UCキャナルシティ博多
スクリーン11(お遍路済み)
2024ー56ー47
(若干、推敲したいです)
●スタッフ
監督・脚本
ジョナサン・グレイザー
原作(小説)
マーティン・エイミス
撮影
ウカシュ・ジャル
衣裳デザイン
マウゴサータ・カルピウク
音楽
ミカ・レヴィ
音響
ジョニー・バーン
ターン・ウィラーズ
●キャスト
クリスティアン・フリーデル
(ルドルフ・フェルヴィナント・ヘス)
サンドラ・ヒューラー
(ヘスの嫁、ヘートヴィヒ)