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関心領域のeulogist2001のネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

ルドルフ・ヘスの家族が住む豪華な邸宅。手入れの行き届いた庭園や小さいながらプールもあり、周りの自然も豊か。子どもが育つには絶好の環境だ。妻のヘドウィグもお気に入りだ。

その敷地を塀一つ隔てた向こう側にはユダヤ人収容所があり、銃らしき発砲音や怒声や悲鳴が微かに聞こえてくる。

ヘスの家族は子どもも母親も自分の事にしか関心がない。そして戦時中にも関わらず贅沢で豊かに愉しく暮らす。

その対比にはなんともやり切れない気持ちにもなるが、結局、我々も似たり寄ったりである事に疑いはない。自分の関心領域の外にあるものは、存在しないのだ。

極論すればこのヘスの家族のありようは、言うなれば私たちそのものの姿だと言っても言い過ぎではない。自分の生活ファースト。

モノクロで映されるりんごを届ける少女。これは対比や皮肉というよりも、残酷な寓話に見えてしまう。

ヘドウィグの母がこの邸宅を無断で逃げ出したのも良かった。※ふつうの人が出来る精一杯の抵抗かもしれない。まして彼女はユダヤ人の家にメイドとして働いていた事もあるのだ。

無関心の度合いの違い、すこしの関心からの弱者への共感、そして手を差し延べる勇気ある行動。その行動も微かな反発や嫌悪から、手を差し延べる者まで。まさにそれは「境界」ではなく「領域」の問題なのだ。

ヘスの家族を自分とは真逆だと思い批判することも(厳密に言えばヘスの家族は分かった上での無関心ではあるが)わたしも一緒かもしれないと考えることも行動の面では同じ穴のムジナ。どうにかしてすこしでも手を差し延べる。想いを馳せる。そっち側に領域を寄せていきたい。痛切にそう感じた作品だ。

ヘス自身がガス室利用を提案した後で吐き気をもよおす。彼もすべての人としての倫理観は捨て切れなかったのか。
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