回想シーンでご飯3杯いける

関心領域の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
第二次世界大戦時のドイツ。ユダヤ人大虐殺の場となったアウシュビッツ収容所を題材にしているが、画面内にそれが映る事は無く、隣に住む所長ルドルフ・ヘスの家庭の様子を延々と描いている。

芝生が綺麗な庭で遊ぶ子供達。豪華な食事。しかし、壁の向こうからは遺体を焼く焼却炉の轟音や悲鳴が聞こえ、煙突からは黒煙が一日中吐き出されている。無関心と正常性バイアスは、人間の心をいかに歪めていくのか。

ホロコーストを題材にした映画は多いが、そのものを描かずに、観客による想像力に委ねた本作の手法は、その中で異色である。特に音の配置による演出が凄まじい。

しかし、僕が訪れた劇場では、両隣と前方にポップコーンを貪るお客さんが着席。紙カップをガサガサとまさぐる雑音とキャラメルソースの甘い匂いが、作品への没入を邪魔する最悪の環境となってしまった。どうして、この題材の映画を観るのに、甘いポップコーンが必要なのか。内容を知らずに買ってしまったとしても、途中で食べるのを止めようと思わないのか。彼らの感覚が理解できず無性に腹が立ったのだが、、、、。

ラストシーンで本作の牙は、一気に現代人に向けて剝き出しになる。タイトルにナチスやヒトラーの名前を冠した映画は多いが、エンタメ的に憎悪を強調する演出も少なくない。実話ベースを謳う事で知った気になる観客も多いが、2時間の映画で何を知れるのか? 僕達観客は今一度、謙虚になる必要があると思うのだ(そういう意味で、ナチスやヒトラーの名前を含まない本作のタイトルは自覚的である)。

僕の周囲でポップコーンを食べていた人達は、正にそんな「ナチス映画の娯楽化」を象徴する存在だったと思う。昔の話だから? 日本の話ではないから?まるで他人事として楽しんでしまうのか。本作はホロコーストに対するメッセージに留まらず、それを題材にした映画や、その反応に対する警鐘を内包するメタ作品とも言えると思う。対象となる反応の典型を間近に体験する事が出来た僕の席は、ある意味、特等席だったのかもしれない。