単なる青春映画とか家族ドラマでは終わらない、かなり深く感情に刺さってくる映画です。
主人公のリュカ、17歳の少年ですが、彼の視点から描かれる世界がとにかく揺れ動いていて、心が休まる瞬間がないのです。父親を突然失った喪失感、母親とのぎくしゃくした関係、同性愛としての自分のアイデンティティ模索、全部が彼に圧し掛かってくる。これがね、まるで観ている人の心に問いかけてくるような構造になっているんです。
リュカの感情表現って、ものすごくリアルで、そして不安定。
例えば彼が父の死を受け入れる過程では、「悲しみ」という単純な感情に収まりきらないんです。悲しんでいるかと思えば、突然怒りが込み上げたり、無気力になったり。これは、実際の喪失体験を持つ人が感じる“波状的な感情”をすごく的確に描いています。
で、ここがポイントなんですけど、リュカの感情の揺れ動きって、決して観客に「こう感じて!」と押し付けてこないんですよ。むしろ、「自分ならこういう時、どうなるだろう?」って思わせてくれる作りになってる。
リュカは母親と住んでいるんですが、この親子関係がもうね、心地悪いんですよ。お互い愛情はあるのに、感情がすれ違う。母親は夫を失った悲しみを必死に隠して「強い母親」を演じようとするんですけど、それがリュカにはむしろプレッシャーになる。
ここで思い出すのが、日本的な「家族愛」ってやつ。日本だと家族の絆を全面的に推し出す作品が多いけど、この映画では家族であっても感情が通じ合わない瞬間があることをあえて描いている。これが妙にリアル。
リュカは同性愛者なんですが、これが単なる「自分のセクシュアリティへの悩み」として描かれていないのが面白い。セクシュアリティはあくまで彼のアイデンティティの一部として存在し、それを中心に物語が回るわけではない。むしろ「人を愛するってどういうこと?」という普遍的なテーマに落とし込まれています。
セクシュアリティは『自分の中のモジュールの一つ』として扱われているという感じ。映画は、そこに価値判断を加えず、リュカという人間の一部として自然に描いています。これがね、押し付けがましくなくて良いんですよ。
この映画を一言で表すなら、リュカは“現代の迷子”なんです。喪失、家族、自分のセクシュアリティ、未来への不安。それを一つずつ整理していくんじゃなくて、同時に全部背負っている。これが現代の若者らしい姿であり、多くの観客に共感を生むポイントだと思います。
感情の複雑さと繊細さを、あえて乱暴にぶつけてくるところが特徴で、観客として見ているってよりも、「自分もその混乱の中に放り込まれている」感覚を味わえる。だから見終わった後に、すごく疲れるけど心に残りました。