ユーライ

乱れるのユーライのレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.5
塩田明彦「映画術」から。もう本当に書かれている通りだが、高峰秀子は橋を渡らない女として設計されている。酒屋の狭っ苦しい家屋しか殆ど映らない本作にあって、ひたすら加山雄三から逃げ続ける。共に歩かず一歩先へ、襖を閉めながら陰が差す部屋の奥へ。踏み出せない女に対して加山雄三は常に外からやって来て揺さぶりをかける男であり続ける。高峰秀子が映るファーストショットはスーパーの進出を酒屋の内側から見つめている画であり、最初から運命は決定されている。ラストショットは当然の帰結。大スペクタクルを起こさなくても、俳優の顔面だけで決定的なカタストロフを起こしてしまえるのが映画。突然の死を認知するのが自身の行い故という徹底、単に時代遅れの女を揶揄するだけではない透徹した眼差しがある。調べてみると、当時のキネ旬ランキングには何故か食い込んでおらず(成瀬が時代によってどのように評価されていったかは全く知らない)、一見名女優とアイドルを組み合わせただけの今風に言えばキラキラ映画のように見做されていたのかも知れないが、一見分かりづらいだけで間違いなく“映画”。会話劇が主体になっている日本映画の系譜。
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