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四月になれば彼女はのnetfilmsのレビュー・感想・評価

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.5
 今作の原作と共同脚本を担当した川村元気氏はもともと有能なヒットメイカーでありながら、自身の作家性はポスト岩井俊二というか、スタジオジブリの『耳をすませば』のような手紙の応答の物語を作る語り手で、前作で永井聡が監督した『世界から猫が消えたなら』でも、日本とアルゼンチンという地球の表裏のような遠い距離における応答しない手紙的な物語を、岩井俊二ほどPOPではないタッチで描く作家だという印象を抱いたが、作品はほとんど90年代の岩井俊二のコピーのような印象であまり感心しなかった。4年ぶりの新作(原作は2016年)となる今作も私が川村元気に描くイメージから1mmも逸脱しない正に「応答しない手紙」における世界線で、正直言って『四月になれば彼女は』などというエモさ100%のタイトルに違和感を感じる層は観なくてもよさそうだ。暗に私も観る前からこれは相当つらい鑑賞体験になるとわかりつつも観ていた。起点は戸田彬弘の『市子』そのものなのだが、物語自体は積極的なかつての恋人・伊予田春(森七菜)と消極的な婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)の二元中継であり、それそのものが二階建て構造という入り組んだ形をとる。

 映画はほとんど全てが現在ではなく過去の回想形式を取る。その辺りが極めて野暮ったく、映画向きの脚本ではないし、監督である山田智和もその辺りの時制の一致にはあまりこだわらず、後半の怒涛の展開に向かいシームレスに繋ぐという意図はわかるのだが、それにしても中盤の動物園での別れから自分のマンションのポストに手紙が届き、また過去に戻って動物園の場面を巻き戻すというのは最低限のモンタージュ理論としては如何なものか?中盤、弥生の失踪の衝撃的な理由が明かされる場面には「ふぁっ」と声を上げてしまったし、その辺りから周りの観客の女性たちがすすり泣く声が聞こえたのだが、いやいやそれなら突然失踪せず、2人一緒に施設に向かえばそれで良かった話だと思ったし、弥生のまどろっこしいメンヘラ気質に唖然としてしまう。森七菜の映画への取り組みを糾弾するまでは行かないのだが、流石に末期患者を演じるなら最低限のやつれた演技は必要だったのではないか?今作に素直に泣いてしまう人々を甘く見るつもりは毛頭ないのだが、その涙は迂闊じゃないですかと斜めから見る私もいる。しかし音楽監督・小林武史の厚顔無恥ぶりにはやや呆れたし、単なる岩井俊二の『四月物語』の拡大再生産じゃないかと。たった1シーンで全てをもぎ取った河井優実と、たった1シーンで地獄のような変態パパを演じた竹野内豊には魅了されたがそれにしても、である。
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