イトウモ

瞳をとじてのイトウモのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
2.8
ビクトル・エリセにしては、ひどく退屈でがっかりした。

20年前、映画の撮影中に失踪した親友の俳優を探す映画監督。その探訪がいつしか共通の友人を見舞うせいで、自分探しの物語になる様はペソアに影響を受けた長編小説みたいで面白そうだが、演出の手数がめちゃくちゃ少ない。お話を聞いて切り返し、たまに手がかりの小道具を写す。
諏訪敦彦の「風の電話」的退屈さがあるが、あれ以上に手数が少ないように見える。
時折挟まる妙なクロースアップ、人間のように表情豊かな犬の顔、老人ホームのクレーン撮影など、ギョッとするカットが散見されるものの、語りを織りなすレトリックとはならずに、映像重視の新人監督のような飛び道具として一瞬の驚きを引き起こすくらいの効果しか発揮しない。

なんでこんなことになってしまったのか。この作品から言えることは少ないが、明らかに現実に映画が負けている。エリセは現実らしきものを切り返しと会話で撮るしか本当になかったのか。
イーストウッドやカウリスマキやゴダールやウェス・アンダーソンがここ20年やってきたかに見える、映画とポストモダンとの戦いをさぼってきた結果がこれなのではないかと思ってしまう。

ラスト、完成しなかった映画の上映から瞼を閉じるフリオのクロースアップへ。映画が現実を包み込む。ここは冴えわたる。こういう80分の映画が見たかった。