ヴレア

哀れなるものたちのヴレアのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
まずはじめに、原作再現度はそこそことタグに書きましたが、ある意味においては原作を上回るほどの再現度であり、ある意味においては原作とは全く異なるコンセプトとなっている為、なかなか表現が難しい。

原作自体かなり特殊な形式(膨大な手記と、資料と、歴史的な背景による註釈)で描かれている為、完全に実写化するのは不可能だろうなと感じたので、この映画における原作の切り取り方はとても分かりやすい上に、刺激的な描写や芸術性に傾倒する事により自然と観客を惹き付ける事に成功していると言える。
何よりベラを演じたエマ・ストーンの演技がとても素晴らしく見応えがある。

原作ではマッキャンドルスが主人公だったが、映画ではベラが主人公となっているのも大きな違いだ。
なので映画ではよりベラに寄り添った描かれ方をしている。
精神が安定する前のベラの無軌道っぷりはより過剰に描かれているので原作の退屈だった"旅行パート"がむしろ映画では面白くなっている。
それは誇張され過ぎたベラによるものだろう。

①普通のベラ…たまに変な行動をするものの普段は比較的大人しい
②誇張し過ぎたベラ…レストランで口から食べ物を吐き出すのは当たり前で所構わずゲロを吐くわ見知らぬ人に暴言を吐くわ、性欲を曝け出して暴れ回るわ、やりたい放題でさぁーね!はぁぁ~?(ザコシ風)
ついでに言うとゴッドのキャラもだいぶ誇張され過ぎていました。

また、実際には原作において旅の部分はベラからの手紙をゴッドがマッキャンドルスに読み聞かせるというスタイルを取っている為、マッキャンドルスを思って性的な描写は割愛されているのである。
その点映画においては制約が無く、観客に向けておおっぴらに描いている為R-18もやむ無しとなっている。
そんな風に全てを曝け出すことでベラがどういった人物であり何処へ向かおうとしているのかがとても分かりやすく描かれているので良かったかなと思う。

最後に、冒頭触れた原作とは異なるコンセプトという点について説明したい。
原作では物語が1つではない。
詳しくはネタバレになるので言えないが、2者による物語が展開され、どちらの話を信じるかと読者に問いかけるような内容となっている為、なんともあやふやな印象を受ける。
それに対して映画では、その一方の物語のみが展開される為、観客としては特に迷いが生じることも無くスッキリと観終える事が出来る。
例え荒唐無稽な話であったとしても、全体を通してファンタジー的な画が展開されるのでこういうものなんだなと妙に納得してしまうのである。

まとめると、原作をより分かりやすくしており、ランティモス監督らしい毒のある展開と芸術性が合致した素晴らしい作品だったと思う。


(先行上映で鑑賞/観客5人)
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