キャサリン

哀れなるものたちのキャサリンのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8
支配により虐げられてきた女性の死と、自らの自由意志により人生を選択するフリーウーマンの誕生。
二度目の人生、今度こそ幸せに生きるチャンス。
他者により作られ、与えられた第二のチャンスではあっても、生き様まで他者に口出しされる権利はない!
それは女性であろうと男性であろうと同じことだよね。

正直見ている最中は、面白いけどなんだこれ?という印象だったし、これがアカデミー…?と思ったけど、見終わってゆっくり考えてみると、めちゃくちゃ新しいタイプの映画なのでは…!と納得できた。

成長に貪欲で性に奔放なベラは、
「こんなヒロイン見たことない!
だけど痛快爽快!純粋で清々しくて羨ましい!」
とも思わせられるほど魅力的だった。
男性がいろんな女性をホッピングする映画は過去にいくらでもあったけど、
女性が自分の意思で男性をホッピングする様を別に良いじゃんとして描いた映画ってこれまであまりなかったんじゃないかしら。

文字通り赤ん坊から大人に成長する様を描いているので、
SF的舞台セットは、無知な少女が初めてのものを見た印象の具現化を意識したのかなと。
モノクロで始まるストーリーも、世界のことも自分のことも、まだ何も知らないというメタファーであるのは明確だった。
親(正確にはゴッド)の束縛を振り解いて、自由奔放な男性であるダンカンと逃避行に出るも、その男もまた自由を与えてくれないことに気づく。
そもそもセックスシーンの
「なぜみんないつもこれをしないの?」
「男は何度も続けられない」
という会話にあったように、男の自由にも限度があるし。(皮肉〜!)

束縛は人の成長を妨げる。
それは親であっても恋人であっても友人であっても同じ。
人格形成に必要なのは親よりも社会に出て出会った人々や過ごした環境なのであって、相手を思っての囲い込みであろうと、結局は利己的な動機に基づいている。
生と性への渇望という人間的な欲を原動力に、
社会に抑圧されるのではなく、
自分の判断で人生を選んでいくベラの生き様の描き方は素敵だった。
体を売ろうとモンスターであろうと、
そこに学びと人間としての信念があれば、それを経験として昇華できればそこまで悪いことではないのかも。

「つまり私はプリズナーなのね」からの
「彼にお水をあげなさい」は
痛快な仕返しすぎてで笑ってしまった。
ちょっぴりリベンジ感(まあ将軍悪い人だし…)が強めだし、フェミニズム感はあるけど、演出のおかげか、あまり嫌なムードになっておらず、
あくまで"風刺の効いたブラックコメディ"という体裁を保っているのは、
さすがこれまで散々ブラックユーモアで映画を撮ってきたヨルゴスランティモス監督の手腕か、と。
これからの時代を生きるすべての女性、いやちがうな、性差を超えたすべての人間に送る人生讃歌。

熱烈ジャンプって台詞を生み出した脚本家と、
熱烈ジャンプと和訳した翻訳家に拍手!
キャサリン

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