イトウモ

哀れなるものたちのイトウモのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9
面白かった。
魚眼レンズ、下からの構図、鈍臭い左右のパン。カメラのセンスが壊滅的に悪いが、タメや余韻がないのでスラスラみれる。脚本があいかわらずかなり良い。

フランケンシュタイン話。
それで、これはある意味でインチキ20世紀ノスタルジー映画である。20世紀というフロイトとマルクスの時代。しきたりや規則でがんじがらめの社会の中でそれに見合う「精神」が求められる19世紀の人間像を破壊し、外科手術で癒える傷と動物と変わらない肉体で生きる「モノとしての20世紀の人間」が生まれる。21世紀から見た懐かしい20世紀ではない、古い19世紀を破壊して現れる新しい20世紀として描く。それはある意味時代劇ではない。ジェンダーの問題がこの詐術に一枚噛んでいる。精神からモノへの「20世紀の物語」を、女の幸せについての「21世紀の物語」かのようにこのインチキがそれなりに面白い。
話に一貫性を与えるエマストーンの演技はかなり魅力的だ。手術を終えて重たい瞼を上げるとき、彼女の特徴的な顔の左右の非対称性が浮き出る。

舞踏会のシーンが一番感動的でストラヴィンスキーの春の祭典を髣髴とさせる。野蛮で新鮮な20世紀がやってくる! という感じがする。


原作と比べてみると、ファウンドフッテージ的にマッキャンドレスの記述にベラのたどたどしい手紙が混ざって筋が行ったり来たりするところ、映画はベラの一代記にされてみて分かりやすかった。
アレクサンドリアパートが短いのでエグみは抑えめにされ、娼館が長くてここは現代風にフェミニズムお勉強パートにされている。ブレシントン将軍とのかったるい問答のくだりがすっぱりカットされたのはよかった。
たとえばこういうのをマックス・オフュルスがつくっていたらどうなっていただろうと思う。