Lz

哀れなるものたちのLzのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.8

圧巻だった。夢想と現実を分ける境界線の限界を目の当たりにした。悲劇と喜劇が織り混ざった、生きる人間たちの壮大な舞台だった。

あの世界にベラはそぐわないような、むしろベラだけが相応しいような……異端な様に見えて、本当はベラの姿こそが、人間として在る為の根源なんじゃないかと感じる。本当は元々、みんながベラだった。ハリーの言葉がそれを物語っていた。きっと私たちは、ベラでいることができなかった成れの果てであり、それを現実として受け入れることで、また世界が広がるんだと…。幻の様な空間で、現実を信じるんだと語らう彼らの姿には、神妙な美しさがあった。

無垢である事は、自らと他人に痛み分けを強要し、共に酷く傷を負う。気付かぬうちにお互い傷だらけになるけれど、その傷さえ愛おしく思わされるから、無垢というのは本当に罪深いなと感じる。ベラに惹かれ、追い続け、自分を壊されたと嘆くダンカンも、知らない感情に怯える幼子のようで、憎みきれない人間臭さがあった。

登場人物一人一人が複雑な形をしたパズルのピースのようで、欠けた部分も突出した部分も、誰ともぴったりはまり合うことのないジレンマを感じた。けれどそのズレこそがあの世界を作り上げる要素で、そうでなければ世界は広がらないのだろうなと思った。

究極的にロマンチックなのに果てしなく現実的な、宙に浮いているような世界だけれど、確実に私たちの生きる世界そのものだった。自分の人生を作品にした時、あんな彩りを見せてくれたら良いのにな、と思える映画だった。

正直、もっと鬱々とした不快な種類の映画かと身構えていたら、全然そんなことはなく、むしろ想像よりずっとずっとポジティブな映画だった。空想的なおとぎ話のように見えて、何より理知的な物語だったように思う。
敢えてCG色の強い映像が、ベラの求めた外に広がっていたのも印象的だった。

エマ・ストーンの醸し出す雰囲気には本当に圧倒された。彼女しかベラは演じられない。本当にこの世界に、あのベラが存在していたと思わされるパワーがあった。複雑な設定の身体が成長していく過程を、あんなにも不自然さなく身一つで作り上げたのには驚嘆だった。素のままの稚拙さから、素のままの美しさへと変化していく姿は、ベラに命が吹き込まれていく感動を覚えた。
全てのキャストが、この映画を特別に仕上げた功労者だった。これは決して当たり前ではないので、そんな作品を映画館で鑑賞できたことを嬉しく思う。

虜になったと言うに相応しい作品だった。当分余韻に浸って、また恋しくなっている。
Lz

Lz