Toro

哀れなるものたちのToroのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
無垢であるということはこういうことなのかという鮮烈なまでの視覚表現と、そこから知性を得て世界を作るまでの流れに一切の迷いがない。

自由という檻の中でもがき続けることでしか生きていけない哀れさを最後まで貫き通した恐ろしいまでの執念を感じる映画だった。

映画館という世間と隔絶された空間でこそ観た方が良い。

死んだ母親のなかにいた胎児の脳みそを母親に移植することで誕生したベラ。大人の身体にも関わらず、精神は無垢でありその奔放さで自由と世界を知る旅に出ることになる。

徹頭徹尾エマストーン演じるベラに焦点が当たる映画だった。圧倒的な存在感と圧巻の演技。本当に最初は赤子のようであり、それが様々な経験を経て成熟した大人になっていく姿は演技を超えた新しい何かを観たようで文字通り釘付けだった。

中盤の初めて涙を流すシーン。全身を鳥肌が走った。あそこで涙を流すのかという衝撃とその理由に。

観ていくほどに7つの大罪を思わせる構成でありこの映画が人の輝きと堕落を、まさに人生を描いているのだと気付かされる。

これでもかと描かれる性的描写にはエマストーンの覚悟を感じるとともに、そこに性的興奮は覚えず、むしろ目を背けたくなった。

それはもしかしたら、ベラが大人の女性ではなく、本当にあどけなさの残る女の子に見えていたからかもしれない。
憑依どころの演技じゃないよ。。

ただただその濃密さに思考が停止させられていた。それほどまでに迷いがない。全てのシーンに意味がある気がしてしまう。

不必要ではないかと思える残酷さこそは人なのだと。
明暗分かれる絵こそが人生だと。

進歩しているかと思えばまた同じ場所に立ち戻っている。

そのなかで、もがきながらもより良い選択を積み重ねるしかない哀れさをまた認めて進むしかない。

そう受け取れた気がしている。
Toro

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