Kaito

哀れなるものたちのKaitoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.8
映画館での上映が2月22日で終了するということだったので、鑑賞。ベラ(演:エマ・ストーン)は橋から飛び降り自殺をし、その遺体をゴドウィン医師(演:ウィレム・デフォー)が引き取り、ベラの脳とベラのお腹の中の子の脳を取り替えるという手術を施す。そしてその手術を施されたベラは知能が退化し、幼児のように欲望を剥き出しにして生活していた。ある日ゴドウィン医師の助手に任命されたマックスはゴドウィン医師の家に行き、そこにいたベラの世話をすることになる。ベラずっとゴドウィン医師の家から出られず、それがフラストレーションになっていた。そしてついにベラは家の外に出て、外の世界を見て経験することとなる。そうした中で彼女自身にも変化現れ…という話。過去に映画館でこの作品の予告編を見た時に抱いた内容と実際の作品を見た時に抱いた内容とはかなり乖離があり驚いた。良い意味で裏切られた作品だった。この作品は簡単に言うとベラの成長譚である。しかし成長する過程が生々しいので他の作品とは一線を画している。ベラは肉体的には成熟しているのだが、精神的には未発達である。この心と体の違和感を表現しているのがあの特徴的な音楽なのかなと感じたりもした。あと最初の方は白黒の映像なのだが、途中からカラーの映像に変化する。これはおそらくベラから見た世界の様子と彼女の心を表したものであり、医師の家の中にいた時は白黒だったが、自分の意思で家の外に出ると画面がカラーになった。これは彼女の中で目の前の世界が色づいたということを表したものではないかと考えた。技術をフルに使って心情表現をする。これは技術が発達した現代でなければできないことである。そのような意味では白黒映画は白と黒という2色のニュアンスでのみ映像表現しているのでより見せ方が重要になってくる。話は作品の内容に戻る。ベラが経験し知能を高めていく過程は生々しい。性的な快楽を覚えると体力が尽きるまで性行為をする。極端だが彼女は誰よりも自分に正直だ。彼女は空気を読むことも覚える。公の場では下ネタや汚い言葉遣いを慎むこと、言いたいことを自分の言いたい時に言ってはならずちゃんとその場の空気を読むこと。これらは健康的な人間が成長する過程では必ず通過することである。そして最終的には自分のやりたいことを自分で選択して実行できるまでになる。成長過程がゆっくりで生々しく苦戦した分成長した時に与える感動は大きい。最後のシーンは印象的で歪んだ感動を感じたがそれこそが彼女なりの最高到達点なのである。それについては誰が否定することもできない。みんなに見てほしい作品です、とは言いにくいがこの作品を見ることによって「自分を刺激する何か」が得られるのは間違いない。「刺激を得て成長したい」と感じたなら是非一度ご鑑賞あれ。
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