Kaito

浮草のKaitoのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.0
小津安二郎監督の「浮草物語」のセルフリメイク作品。1959年公開。旅芝居の公演のために志摩へ来た嵐駒十郎(演:中村鴈治郎)の一座たち。実はこの街には駒十郎とここで飯屋を営むお芳(演:杉村春子)との子供である清(演:川口浩)がいた。駒十郎は清に自分が父であることは言えておらず、叔父であるということにしていた。清と親しくしていた駒十郎を不審に思った一座の看板女優のすみ子(演:京マチ子)は一座の女優の加代(演:若尾文子)にお金を渡して清を誘惑するよう仕向ける。加代の誘惑に乗った清は加代と恋仲になる。ふたりが一緒にいるところを見た駒十郎は怒る。そしてすみ子が仕向けたと知ってすみ子を殴る。芝居の客足は伸びないので駒十郎は一座の解散を決意する。一座の皆で最後の宴をした後、お芳にも別れを告げに行くが清は加代と出かけておりいなかった。2人は帰ってくると駒十郎は怒りをぶつける。その際にお芳が清に駒十郎こそが本当の父であると伝えると清はそんな親ならいらない、出ていってくれと言う。駒十郎は加代をお芳に託し、1人でこの地を去ろうと駅へ向かう。そこにはすみ子がおり、だんだんと仲直りし2人で夜汽車に乗り桑名へ向かうのだった…という話。フルカラーの作品。撮影は主に小津の第二の故郷でもある三重県にて行われた。ストーリーの設定は今見ると古さを感じるがこれはこれで良い味が出ていると感じた。小津監督らしく人間の感情とそこから生まれる人間同士の関係性を上手く描いた作品だった。この作品は駒十郎の演技が良かった。ストーリーの8割くらいは所謂嫌な人だった。すぐに怒るし手は出すし自分勝手だしと挙げ出したらきりがない。しかしそれだけ嫌なヤツだった分息子の清にそんな親ならいらないと言われた時に人が変わったようになったのが印象的だった。すみ子も良かった。言ってしまうとすみ子が加代に仕向けたせいでこうなってしまったとも言えるのだがそれでも最後に2人で汽車に乗るシーンは胸にくるものがあった。雨の中2人が向かい合う家の軒下で言い合うシーンや、清の顔を見えなくするシーンは特に印象に残っている。人間同士の交流により生まれる機微な雰囲気を小津監督は様々な技術を使って効果的に演出する。公開から今年で65年も経っている作品だが現代に通じるものは確かに存在する。タイトルの「浮草」は駒十郎のこれからの放浪生活を表現してのものだろうか。人間模様とそこから生まれる悲喜交々。心の機微。忙しない現代の私たちはこのようなことをその忙しなさ故に忘れ去ってしまっているがこれらを今一度思い出し、関係性や繋がりについて考えることは他者だけでなく自分自身をも見つめることになる。
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